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税理士がサポート!『はじめて起業ものがたり』 「起業って何から始めればいいのか86 部下への適切な距離感で組織の力は向上する」

【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】

 

今回のポイント
 相手を問わずバランス重視 

 

 

11月に突入し、さらに慌ただしくなってきたこの時期に新たな問題が発生した。

学生アルバイト講師のひとりから仕事を辞めるという申し出があったのだ。

学校の単位についてだったり、就職活動だったり、そういった事情であれば仕方のない話で納得するのだが、離職理由はまったく別の内容だった。

 

学生アルバイト講師の石川だけを特別扱いし過ぎているのが許せないから、というのが一番の理由のようで、同様の思いを抱えている講師が数名いるらしい。

 

 

話はしたものの、まったく聞く耳を持たない感じで保留することもできず、そのひとりはもうシフトに入ることはなくなってしまった。

登録は残ってはいるものの、事実上退職である。

これで学生アルバイト講師は5名となった。

 

最もシフトに入っていない学生アルバイト講師ではあったので、ダメージは最小限に抑えることはできたものの、波及効果が大きな不安材料である。

塾生でもひとり退塾者が出ると堰を切ったように続々と去っていく生徒が現れる。

学生アルバイト講師の中には不満を持っている者がまだいるとのことなので、可能性は十分にあった。

 

実際のところ、オンライン部門が活性化、そこに新たな問題が浮上したことで、塾生に目を配るのに精一杯になっていて、学生アルバイト講師は見えていなかったことを素直に反省し、速やかに全員との1対1の面談を実施した。

 

そこで驚いたのは、ここで働くことにやりがいは感じてくれているものの、残り5名の学生アルバイト講師全員が何かしらの不満を抱えており、いつ辞めてもおかしくはない状態だったことである。

最も優遇している石川すら、不満の方を多く口にしていた。

 

最も多忙期のタイミングで、雇用問題に頭を抱えることになるとは、まったく予想できておらず、まさに青天の霹靂だ。

このムードで12月に突入してしまっては、冬期講習会の募集、そこからの入会、さらには受験生の入試に向けた準備にも悪影響を及ぼしてしまうことだろう。

 

学生アルバイト講師との面談が終了し次第、私は顧問税理士の天海さんを頼って事務所へ向かった。

 

「大人数であれ、小人数であれ、人を雇う、組織を運営するということは難しいものじゃよ。むしろ初めての経営でここまでできていたのが優秀なのではないのかの」

 

「天海さんに評価していただけるのは嬉しいのですが、講師陣の私への評価は違うようです。誰々を特別扱いしている、最近距離感を感じる、忙しそうで声もかけられない、見えないところで好き勝手やっている講師がいるのに野放し状態、その他諸々私への不満の声があがっていますよ」

 

 

「ひとりの方が気楽じゃった、と考えておるのか?」

 

「そうですね。ただひとりでは無理でした。やはり学生アルバイト講師に頑張ってもらったおかげで今があると思います。その感謝の気持ちを伝えると、少し相手の表情は和らいだ気がします」

 

誰でも正当な評価を受けたがっている。

 

その点をしっかりマネジメントするのも経営者の役目。それができたら組織の力はまだまだ向上するぞ。しかし、不満を聞いたからといって一貫性のないバラバラの対応をしていたのでは、さらに問題は悪化する。軸はぶれぬようにな。

 

家康公の言葉にはこのようなものがある。

 

家臣を扱うには禄で縛りつけてはならず、

 

機嫌を取ってもならず、

 

遠ざけてはならず、

 

恐れさせてはならず、

 

油断させてはならないものよ

 

というものじゃ」

 

「欠けている点は身に覚えがあります。修正点が見えていました」

 

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