【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
お盆の時期も終り、8月下旬は夏期講習会の後半戦だ。
アルバイト講師も生徒らも問題なくお盆を過ごせたようで、全員がしっかり後半戦初日から参加している。
ただし、雰囲気はなぜか重苦しい。
夏期講習会の前半戦は講師も生徒もかなり盛り上がって勉強に向かっていたのに、今はそんなムードではない。
講師の笑顔はややひきつっているし動きが鈍い、生徒も手にするペンすら重く見えるほど動きが緩慢だ。
やはり4日間という中途半端な休みがみんなのリズムを狂わしてしまったようだ。
特に心配なのは、新人アルバイト講師の本多と榊原の2名で、明らかに表情が暗く、動きも遅い。
あれだけ率先して動き回っていたのがウソのように、指示を聞いてやっと動き出す始末だ。
一種の燃え尽き症候群のような状態だろうか。
私の見る限り、前半戦のモチベーションを維持できているのは中学受験を控えた小学6年生の塾生4名と、石川・酒井といった講師陣の柱である2名ぐらいである。
後半戦初日は仕方ないにせよ、翌日の2日目も同じような雰囲気だったので、さすがに迅速な対応が必要だと感じた。
この点については先日、天海さんと昼食をとった際にアドバイスを受けている。
教室の雰囲気が悪いからといって、新人2名を叱り飛ばしたり、生徒たちに怒鳴っても状況は悪化する一方。
そんなことになればうまく進んでいた夏期講習会はとても残念な結果に終わってしまうだろう。
職場の雰囲気が悪いときは、
上司が意識してポジティブな言動を見せ、
雰囲気を少しずつほぐしていくことが大切だ。
この点は石川・酒井とも共有しておく必要があったので、2日目の昼の時間に面談室で話をした。
この雰囲気の悪さは両名とも感じていたようで、私の提案を快く受け入れてくれた。
まずは私たちが元気で、そして笑顔で一生懸命に働く姿勢を見せることだ。
その上で休憩時間は他の講師や生徒に積極的に話しかける。
たったそれだけのことなのだが、明らかに活気に満ちたムードは伝染していく。
酒井が新人講師の榊原と話をしたところ、仕事量にかなり負担を感じていたことが判明した。
相談の結果、私を含めた石川・酒井で分担して榊原の負担を軽減することを決定。
わずかな仕事量の話ではあるのだが、こういった細かな対応によって本人は悩みを抱え込まずに済み、心や時間に余裕を持って業務にあたることができて自然と笑顔が増えくる。
人間関係を円滑にし、周辺の雰囲気を良いものに変えていくことは難しいことではない。
むしろ誰にでもできること。
ただ、誰にでもできることは、得てして誰もしないことが多い。
上司がそれをやる気になり、行動に移せるかどうかだ。
おそらく悪い部分の指摘はもっと簡単だ。
他人の短所は自分の短所と違いよく見える。
しかしそれでは職場の雰囲気は良くならないし、自分にとっても相手にとっても問題の解決にはならないだろう。
特にこういった心に余裕がなくギスギスした雰囲気のときは、指摘のし合いで悪循環に陥りやすい。
顧問税理士の天海さんは、昼食時にこうも話をしていた。
「アメリカの政治家であるベンジャミン・フランクリン氏はこんな言葉を残しておるぞ。
『どんな愚かな者でも
他人の短所を指摘できる。
そして、
たいていの愚かな者がそれをやりたがる』
とな。大切なのはその逆じゃ。
ポジティブなコミュニケーションの機会を
増やしていくことこそ
重苦しい雰囲気を
徐々に変えていけるのじゃ」