他県でトップシェアを誇る有名進学塾「清洲予備校」が進出してきての初の夏期講習会。
その強烈な逆風はまず募集数に現れた。
夏期講習会の一般生申込は、昨年比マイナス40%。
出だしで大幅にコケた状態ではあるが、ここから入会数で挽回すべく準備を進めていざ夏期講習会へ。
今回はレッスンの質を維持したまま、コーチングを取り入れた学習面談や電話対応で顧客満足度を高めることをテーマにしている。
講習会中はどうしても一般生にかかりっきりになってしまい、塾生対応が疎かになりがちだが、そこもしっかり配慮して夏期講習会前には塾生も全員三者面談を実施した。
私ひとりで100名もの面談は不可能なので、学生アルバイト講師の石川、酒井、本多、榊原、井伊と分担して対応。
一般生18名は、中3生を酒井5名と本多3名、中1生の3名を榊原、残りの5名を私、そして2名を井伊と割り振った。
オンライン部門の一般生11名は、石川5名、大久保3名、春日3名とこちらも分担制にしている。
もちろん担当がひとりですべてのことを対応するわけではない。
他教科を指導する講師とも情報を共有し連携してより能力を引き出せる環境を整備する。
こうして万全の態勢で夏期講習会に臨めたと考えていたのも束の間、実際に始めてみるといくつかの大きな問題点が浮上してきた。
今回初参加となる一般生の中には、かなり学力が厳しい状態の生徒や保護者からの要望が高すぎたり複雑すぎるといったケースが多発したのである。
30分ほどの学習面談の時間を想定していたのだが、倍の1時間以上かかることもあり、ここまで対応に苦労しそうな一般生が集まったことは過去に例がないほどだった。
この学習面談によると、対応が苦労しそうな一般生に入会希望者が多く、ぜひ入会して一緒に頑張っていきたいと思える一般生は入会意志なしという結果。
言葉は悪いが弱り目に祟り目とはまさにこのことだろう。
実際のところ夏期講習会初日を迎える前日の夜の時点で心が折れかけていた。
こうなると、こちらの夏期講習会をキャンセルして清洲予備校に参加した13名の一般生こそがこの夏で入会してほしかった生徒たちだったのではないか、とついつい邪推してしまう。
これではまずと思い、気持ちを切り替えるべく、講習会が始まる前日の夜に顧問税理士の天海さんの事務所を訪ねた。
「なるほど、募集も振るわず、参加してくれた一般生も問題が多そうなところが多いということじゃな」
「現在偏差値50前後の状態でこの夏で偏差値60まで上げて欲しい、そのためにどんな対応をしてくれるのか具体的に示してほしいと繰り返し問い合わせのくる家庭があったり、まったく勉強に意欲関心がなく保護者の指示で無理矢理参加させられた生徒がいたり、とても手強い生徒や家庭といった感じです」
「コーチングというものは一度の話し合いで効果の出るものではない、何度も話をしていくうちに信頼関係が築け、少しずつ変化が現れるものじゃ。焦らずじっくり取り組むことじゃの」
「この逆境に心が折れそうになっています」
「はじめさんらしくもない台詞じゃな。
逆境はどんなビジネスをしていても必ず訪れる。
問題はそこにどう立ち向かうかじゃ」
「さすがに今回ばかりは自信がありませんよ」
「まさに逆境の連続だった当時のイギリスを立て直した指導者ウィンストン・チャーチル氏は、こう述べておる。
『成功とは、失敗を重ねても
やる気を失わないでいられる才能である』
とな。はじめさんはその才能があったからこそ、ここまで来られたのじゃ。これまでの成功体験と同様じゃろう。立ち向かってこそ道は拓けるぞ」