塾業界は4月が新年度のスタートとなる。
今年は初めて正社員を雇用しての経営となり、私としては起業以来いつになく緊張している。
ただし、正社員となった二人は以前から私の学習塾を支えてくれていた「酒井」と「石川」だ。
学生アルバイト講師陣も含めて従業員の顔ぶれはまったく変わっていないので、特に意識し過ぎているのは私だけかもしれない。
もちろん経営について相談させてもらう相手も変わらない。
4月に入り、繁忙期が過ぎたので顧問税理士の天海さんと会う時間が増えている。
起業して何年経とうが信頼して相談できる相手がいるのは心強い。
今日は天海さんとイタリアンのお店でゆっくりディナーを楽しんでいる最中だ。
「酒井と石川が無事に正社員になってくれてひとまずホッとしました。二人とも実績は抜群ですし、生徒にも保護者にも信頼されていますからね。いてくれるのといなくなってしまうのでは天と地の差がありますよ。他の学生アルバイト講師もこの1年間でそれぞれレベルアップしていますから、今年の活躍が楽しみです!」
「それでは経営者としての新年度スタート挨拶にも気合いが入ったのではないか」
「そうですね。昨年は進出してきた清洲予備校に押され気味の1年でしたから、今年は絶対に巻き返そう! といった感じの決意表明になりました」
「はじめさんらしいわかりやすい挨拶じゃの。ところで、面白いデータがあるのでひとつ質問してみようかの。新年度の決意表明を覚えていない経営者がどのくらいいると思う?」
「さすがに新年度の決意表明を忘れる経営者はいないんじゃないですか。まあいたとして全体の5%くらいでしょうか」
「それがの、驚くことに実に30%以上の経営者が忘れてしまっているようじゃ。うろ覚えも含めるとおよそ半数にも及ぶ。それだけ意味のない言葉だけの決意表明になっているということじゃな」
「半分の経営者が自分で口にした言葉を忘れてしまっているんですか・・・・・・ まあ確かに従業員として働いているときは経営者の決意表明をほとんど覚えていませんでしたが、経営者になってその状態はまずいですね」
「なんとなくの方針だけを話しているのであって、具体的な計画を示すことができていないから形骸化しておるんじゃろう。
決意表明は強い気持ちを伝えることも大事だが、
何を言うかよりも
何を定着させられるのかが
一番のポイントになる」
「決意表明で具体的な計画を示して、
それが一年を通じて実践されていくことが
大切だということですね。
言われてみると具体的にいつまでに何をして清洲予備校に対抗していくのかは示すことができていないですね」
「アメリカの第16代大統領であるエイブラハム・リンカーン氏は、計画の重要性についてこう述べておる。
『木を切り倒すのに6時間くれたら、
最初の4時間は斧を研ぐのに費やす』
とな」
「過去の状況を振り返りながら、今年はどんな目標を達成したいのか、そのためにどんな取り組みが必要なのかをもっと研ぎ澄ましてから決意表明してこそ、自分でも忘れずに覚えていられるし、従業員にも浸透するんですね。もっと早くその話を天海さんから聞いておくんでした」
「遅いということはあるまい。今週末には新年度の決起会をやると言っておったの。そこでしっかり話をしてもいいじゃろう。もちろん来年度のスタートの際には、今年話をした具体的な計画がどれだけ実行され、成果をあげられたのかといった振り返りも重要になるぞ。そういった決意表明こそが、組織に力を与え、組織を動かすことのできる経営者の決意表明じゃな」