世界水準でインフレ率が高まり、異次元緩和策を続けていた日本も同様にインフレを抑制するための金融政策の転換を余儀なくされつつある。
金融引き締めによって市場に流れる通貨は減り、利上げによって家庭の経済力は低下していくだろう。
否応なく節約を迫られることになる。
しかし、子どもの将来のため教育費について惜しまない家庭も一定数いるのは間違いない。
そんな中で選ばれる学習塾になるためには、顧客満足を超える顧客感動(Customer Delghit)を提供していく必要性に気がついた。
顧問税理士の天海さんの言葉通り、外部ではなく、内部である自分の経営している学習塾を見つめ直してみることで、顧客感動を生み出すヒント、そしてすでに実践している現場を発見することができた。
オンライン部門を任せている石川のサービスだ。
レッスンが丁寧で手厚いことだけではない。
その後の家庭への連絡は当たり前、今後の課題点の共有、レッスンからのフィードバック、さらにその後の生徒の微妙な取り組みの変化にもいち早く気づき対応していた。
まさにサービスの水準を超えた、ホスピタリティである。
実際に生徒や家庭が石川の対応に感動している声も塾長で私の耳にも聞こえてくるし、ひとり当たりのコマ数も増えていた。
はたして、石川の作り出している顧客感動を、どうすれば至る所で実践できるのだろうか?
もちろん石川のすぐれた人間性や、相手をしっかり見つめてサポートする能力に長けている点が特筆しているのは確かだが、そこに頼っていたのでは学習塾全体の仕組みとしては機能しない。
みんなに石川の仕事ぶりを真似しようと呼びかけるだけで実践できるとも思えなかった。
それだときっと大切な何かが不足することになるだろう。
天海さんは、真の発見とは新しい景色を探すことではなく、新しい目で見ることだと言っていた。
私は再び天海さんと電話で話をすることにした。
何か重要なことに気づいているのだが、その何かがわからないもどかしさがあったからだ。
「なるほどの。それは石川という学生アルバイト講師だけの力によるものだと考えすぎているのかもしれんぞ」
「石川だけの力ではない・・・・・・」
「もし石川という学生アルバイト講師が他の学習塾で働いておったら、そこまでの対応ができていたかのかの?」
「それはここだから石川が力を発揮できたということですか? まあ、確かに彼女の力を存分に発揮できるよう計らってはいますが」
「そこが大切なポイントなのかもしれん。スタッフに裁量を持たせることは吉と出ることもあれば凶と出ることもある。経営者の意のままに動くわけではなくなるからの。サービスが低下する危険性もあるのじゃが、はじめさんは彼女としっかりコミュニケーションを取って、働きやすい環境を整えてきたし、風通しの良い状況を作り出してきた。そして何より彼女の取り組みをしっかりと評価し、感謝の気持ちも伝えていたではないか。
スタッフが満足して働けているからこそ、
自由裁量権を与えたときに、
お客様一人ひとりを満足せたい
という行動を生み出しておるのではないかの」
「そうか、やらされている感でのサービスでは、顧客感動までは届かないということですね。マニュアル云々ではなく、講師それぞれが主体性を持って働ける環境を整えていくことが大切なのですね」
「サッカーの神と称えられた元日本代表監督のジーコ氏はこう言っておる。
『人の作る組織にとって、
言われたことしか実行しない部下は
役に立たないどころか組織の命取りになる。
こういうタイプの人間が増えれば増えるほど、
その組織は発展していく力を失っていく』
との」