新しいプロジェクトを発足し、5人チームを編成したはいいが、意見がまったくまとまらない状態が続いた。
積極的にアイディアを出すのは新人の井伊なのだが、そのアイディアは経験豊富な大久保や春日にすぐに潰される。
かといってベテランの両名が何かしら提案するというわけでもなく、ただただ若者に対して否定的な姿勢だった。
顧問税理士の天海さんに相談し、プロジェクトとはまったく関係ないチームビルディング用に開発されたゲームを実施。
ゲームなんて効果あるのかと思っていたのだが、これが意外に良い影響を及ぼしてくれ、それぞれの相互理解はやや改善された。
さらに、リーダー役の石川がそれぞれのメンバーとのコミュニケーションを積極的にとって理解を深めてくれている。
井伊の意見に対してのフォローも的確なため、何を提案しても真っ向から否定されるので後ろ向きになっていた井伊が、また発言するようになってきた。
ベテランの両名も井伊の意見を一端受け止めてから、「ここをこうすると効果が期待できる」といったような建設的な対応に変わってきている。
やはりリーダーの役割は重要だ。
石川は完全に自分の役割を理解し、実行に移せている。
問題は他のメンバーも同様に自分の役割を果たせるようになれるかどうかだろう。
天海さんからは、
「チームビルディングを成功させるポイントは
それぞれのメンバーが
自分の役割を明確にできるかどうか」
だと聞いていた。
石川は、ベテランの両名がリーダーの指示待ちになりがちな点を憂えていたので、この話を聞いて賛同してくれた。
役割を明確にすることで井伊も自信を持って動ける場を作れるため一石二鳥なのだ。
石川がベテラン両名とそれぞれ会話をしていて感じたのは、
大久保は失敗を恐れて新しいことにチャレンジするのに奥手だが、着実で先の先まで見通す力に長けているということ。
春日はクールな感じが強く社交性にはやや難があるものの、難関校に受験する生徒へのケアは大いに学ぶ点があるということだった。
加えて新人の井伊は、経験不足なことを忘れて率先して進めていく点が危なかしいが、行動力は人一倍で、自らが成長することに貪欲だとのことだ。
私と共通の認識だったことに驚きつつ、石川がいつの間にここまで成長していたのかと感心したのと同時に、早い段階で私を越えていくだろうと舌を巻いた。
天海さんからは、このようなリーダーになれる人材を育成していくことがまず重要だとアドバイスされていたので大満足である。
天海さんはユニクロの代表取締役会長である柳井正氏の言葉を引用して、
『社員の長所を伸ばして
活かすのも経営者の仕事』
と話していた。
役割を明確にするということは、まさに
それぞれの個性をしっかり把握して、
その長所を活かせる環境を作り出す
ということだろう。
大久保は、難関校合格に向けてどのような取り組みが必要なのか計画の立案。
春日は、難関校を志望する家庭や生徒をどのようにサポートしていくか対応策を検討。
井伊は、様々なことを学びながら元気に生徒を引っ張っていくなどムードメーカーとしての役割。
石川は全体の動きを把握しつつ、会議の場や個々とのコミュニケーションを通じて共通理解に落とし込む進行役。
さらに私は、石川を含めたチーム全体が安心して業務に打ち込めるように最大限バックアップしていく。
それぞれの役割が明確になり、相互理解も深まって中で、メンバー全員が自主的に動くようになり、会議での意見のすり合わせもスムーズに運ぶようになってきた。
つまり5人の編成がチームとして機能し始めたのである。
もちろん課題は山積みだが、明るい将来に向けてスタートを切れたことは間違いない。