※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
ショウ「おお、こっち、こっち」
マモル「スミマセン。時間に遅れてしまって」
ショウ「いや大丈夫だよ。こっちが急に呼び出したんだし。もうお先にビール飲んでるしな」
マモル「退社時刻の直前にトラブってしまいまして」
ショウ「お客さん? それとも従業員? ああ、その顔は従業員か」
マモル「もう、しょうもない話なんですが……」
ショウ「俺はマモルのメンターみたいなもんだから、いくらでも話聞くぞー。他で愚痴言ってもマイナスしかないからな。言いたいことはここで言っておけ」
マモル「じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて、スミマセン。今日は週末ですし、お客様への連絡の約束を忘れていないか確認していたんです。そしたら、慌てて杉山が……、若手の方ですね。杉山が電話始めて」
ショウ「連絡を抜けてたのか。確認して良かったじゃないか。お客さんには迷惑がかからなかったんだろ?」
マモル「まあ、そうなんですけど。普通、その後、忘れていましたスミマセンとか、思い出させていただいてありがとうございますとか、こんな内容の電話でしたとか、一言報告があってもいいじゃないですか。何にも無いんです! そのまま、お疲れさまでしたーとか言って帰宅しようとしたんですよ!」
ショウ「落ち着いて、ほら、ビール飲んで。で、叱ったわけか」
マモル「もちろんですよ。報告・連絡・相談の報連相は、うちの基本ルールですからね。というか、社会人として常識じゃないですか! なんで誰でもできることができないんですか? できないんじゃなくて、しようとしないんです。それで頭にきて怒鳴りつけてやりました」
ショウ「かなりヒートアップしたわけね。で、その杉山くんは?」
マモル「はあ、とか言ってまったく反省してる感じもなく帰っていきましたね。信じられないです。この歳まで何を学んできたんだって感じですよ。先輩に前回、短所は見ないようにと言われましたけど、これは見過ごせなかったですね」
ショウ「お前の思いは伝わった?」
マモル「たぶん。あれでわかんなかったら、一生無理ですよ」
ショウ「杉山くんの行動は変わる?」
マモル「…… どうでしょう。自信はないです」
ショウ「叱るのと、怒るのはまったく別だぞ。相手によくなって欲しいという思いから言動しないと、ただ苛立つ自分の感情をぶつけても反発を招くだけだからな」
マモル「叱るのと、怒るのは違うんですか? 知らなかったです」
ショウ「まあ、俺もメンターの顧問税理士からアドバイスを受けて知ったんだけどな。いくら正論を唱えても、怒っていたんじゃ相手は変わらない。それで俺も余計に感情的になっちゃって、退職していった従業員もいたんだ」
マモル「先輩にもそんなことが?」
ショウ「顧問税理士の先生にはマネイジメントについていろいろ学ばさせてもらったよ。あの時は、ガリレオ・ガリレイ氏の言葉だったな」
マモル「有名なイタリアの物理学者ですね。地動説を唱えて裁判にかけられた」
ショウ「そう。彼はこう言っている『人を教えることはできない、ただ自悟させる手助けをするにすぎない』とね」
マモル「自悟って、何ですか?」
ショウ「本人がその気にならないと、いくら教えても、腑に落ちないままで終わる。本人が知りたい! 聞きたい! 教わりたい! って、思っている状況が必要だってことさ」
マモル「まずはそういう思いにさせることが大切だってことですか」
ショウ「自悟させる手助けっていうのは、要するにコーチングだな。重要なのは本人の気づきだよ。重要性や意図に気付けば、杉山くんは自分で学ぼうとするだろう」
マモル「怒っても相手の心のガードは固くなるだけですか…… やっぱり僕も話を聞いてもらって、冷静に考えることのできるアドバイスが必要です。先輩がいてくれて助かります」
ショウ「とは言っても、俺も顧問税理士の先生の受け売りだけどな」