※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
ショウ「もしもし、どうだい? その後、彼との関係は」
マモル「わざわざお電話いただいて、ありがとうございます。そうですね、とりあえず最悪の状態にはならずに済みました。といっても、良くもなってはいないんですが」
ショウ「話はしていないのか?」
マモル「ええ。今のところ、何もなかったかのように装っています。これで本当にいいんでしょうか?」
ショウ「イギリスの神学者であるトーマス・フラー氏の言葉には、『激怒しているときには何もするな。嵐の海に漕ぎ出すようなものだ』とあるからな。お互いに冷静になってから話をするべきだろう」
マモル「マーケティングよりも、従業員のマネイジメントの方が大変なんじゃないかと思うようになってきました」
ショウ「お客さんへの対応よりも、従業員への対応の方が難しいか」
マモル「なんだか一体感というか、チームワークのようなものが感じられないんですよね。モチベーションも下がってきているように思えますし。やっぱり従業員のモチベーションが上がるようなことをした方がいいんでしょうか?」
ショウ「モチベーションが上がるようなこと?」
マモル「飲み会を開いたり、社員旅行に行ったりとか……」
ショウ「あははは」
マモル「先輩、どうして笑うんですか!?」
ショウ「いや、ゴメン。俺もマモルと同じ悩みを持った時に、まったく同じ発想をしたなーって思い出してさ」
マモル「そうなんですか?」
ショウ「そうやって従業員のモチベ―ションを上げるのもマネイジメントだと思っていたからな」
マモル「その口ぶりだと、あんまり効果が無かったってことですか? もしかして顧問税理士に止められたとか」
ショウ「止められたねー。それは部下に対する正しいマネイジメントではない。って、はっきり言われたよ」
マモル「じゃあ、先輩は実行していないんですね」
ショウ「いや、した。俺は、自分の信じることをやってみないと気が済まないタイプだからな」
マモル「実行してみてどうでした?」
ショウ「そうだな。しばらく続けてみて、こういったイベントで従業員のモチベーションを上げることが大切なことかどうか疑問を感じるようになったね。たまに息抜きは必要だけど、モチベーションを上げるうえで必ずしも必要なことじゃない。経営者にはもっとやるべきことがあるって気が付いたよ」
マモル「もっと経営者としてやるべきことですか……」
ショウ「メンターの顧問税理士は笑っていたよ、そして、『相手は間違っているかもしれないが、彼自身は自分が間違っているとは決して思っていない。だから相手を非難しても始まらない』というデール・カーネギー氏の言葉が返ってきた」
マモル「なかなかの皮肉ですね。先輩にとってメンターの存在ってどうなんですか? わずらわしいと感じることもありますか?」
ショウ「俺は経営者になって初めて、徳川家康氏の言葉に共感したね」
マモル「江戸幕府を築いたあの征夷大将軍の家康公ですか?」
マモル「そう。深い言葉が多いんだけど、その中でも『諫めてくれる部下は、一番槍をする勇士より価値がある』というのがあるんだ。営業で成果をあげる、売り上げを出す、正確で迅速な資料を作ってくれる、そんな従業員ももちろん心強い存在なんだけど、ひとつの価値観に凝り固まりやすい経営者を諫めてくれる存在はさらに重要だよ。経営者だって間違いを冒すからな。でも失敗を怖れているわけにはいかない。そんな時にメンターのアドバイスは貴重なんだ。仮に自分の意思を貫いて失敗しても、その言葉があるから失敗を成功に繋げようと改善に動くことができる」
ショウ「諫言を聞かずに、無理に進んで失敗しても、メンターには価値があると」
マモル「能力の問題じゃなく、やり方の問題なんだって明確になるからな。失敗の仕方を実体験して学んで、同時にメンターのアドバイスが示す成功に近づくための方法も理解できるようになるのさ」