※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
ショウ「さて、レンタル移籍して2週間が経過したわけだが、どうだ? 上田、望月はマモルの会社に慣れてきたか?」
マモル「苦戦中です。慣れてきたという感じは、残念ながら…… ありませんね。むしろ縮こまってきているような雰囲気です」
ショウ「縮こまってきている? 萎縮して仕事をしているということか?」
マモル「ええ。遠慮というよりも、萎縮という言葉の方が的確でしょう。特にベテランの上田さんが顕著ですね。表情も優れません」
ショウ「上田は経験も知識も素晴らしいものを持ってはいるんだが、なにせ、ストレスに対する耐性が弱いんだ。それでどんどんやる気を失い、力を発揮できなくなる。周囲はやる気がない、仕事ができない人だと陰口を叩くようになるから、余計に弱っていく」
マモル「僕の会社の従業員は、陰口を叩くようなのはいませんが、逆にズバリ指摘するタイプです。これまでの何らかの発言が上田さんを傷つけてしまった可能性は大いに考えられます。思い当たる節が多すぎるぐらいです」
ショウ「ビジネスには人間関係は重要だからな。それで成功できるかどうか決まると言っても過言ではないだろう。ちょっとの指摘でへこたれるようでは、とてもこの世界ではやってはいけない」
マモル「…… ってことを先輩は本人には告げたんですか?」
ショウ「うーん…… あまり指摘すると、すぐに退職してしまう危険性があって、間接的なアドバイスに留めているんだ。2度ほどそういったことが原因で長期離脱した経緯があるからな」
マモル「なるほど。先輩が手強いとおっしゃっていた理由がだんだんわかってきました。望月さんは、逆にやる気があるような発言が多いのですが、とにかく動かないですね。人手の兼ね合いもあるので、動いてもらわないと仕事が回らないのですが、いろいろと理由をつけて、なるべく避けようとしている感じです」
ショウ「ああ。そこが一番の問題でね。口は達者なんだが、なにせ向上心がない。努力をしようとしないんだ。それで周囲が呆れてしまう。口だけで仕事のできない人だとレッテルを貼られるわけさ」
マモル「そういったことなんですね。能力はとても高いのにもったいない。ただ、このペースでいくわけにはいかないんですよ。杉山と木梨さんは本気で新婚旅行を中止しようかと検討しています。旅行中も心配でいられないようですし、戻ってきたら膨大な仕事が滞っているのではないかと」
ショウ「そうなってしまうと本末転倒だな……」
マモル「僕もコーチングをしながら少しずつ問題点に気づいてもらい、自己対話で解決できるよう導いていきたいのですが、なにせ萎縮しているのでなかなか本音で話しをすることも難しい状態です。先輩、何か本人たちを奮い立たせる言葉はありますか? 先輩からの応援メッセージとして伝えたいと思うのですが」
ショウ「そうだなー…… うーん…… ここは李白氏の言葉を借りようか」
マモル「唐の時代に活躍した詩人ですね」
ショウ「詩仙と呼ばれているほどの偉人だよ。彼は、
『天が私を生んでくれたのは、
必ず世の中の何らかに役に立つためである』
と述べている。期待を込めてこの言葉を伝えてくれ」
マモル「どうすれば自分が社会貢献できるのか、それに気づくことができれば、彼らは主体的に行動できるようになるということですね。わかりました。僕も彼らに接する際には、その点を考えてもらえるよう問いかけていきます。先輩の会社に戻った際には、見違えるような成長した姿で、周囲を驚かせてみせますよ」