※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
ショウ「休憩時間に呼び出してすまない。顧問税理士から聞いたんだが、マモルのところがたいへんなことになっているそうだな」
マモル「先輩、いつも気にかけていただいてありがとうございます。そうなんですよ。橋本さんが事故に遭って怪我をして入院中なんです。不幸中の幸いで、致命傷にはならずに済んでいて、数週間療養したら復帰できるそうです」
ショウ「そうか。復帰できるのであれば良かったが、橋本さんはマモルの会社の大黒柱だろ。橋本さんのいない数週間はかなり厳しいんじゃないのか?」
マモル「そうですね。実際に事情を説明してキャンセルしていただいたクライアントも出てきています。僕も含めた残りの従業員でカバーしたいのですが、しきれないのが現状です。もし先輩の会社からレンタル移籍のふたりが来ていなかったらと考えるとゾッとしますね」
ショウ「少しでも貢献できているのなら何よりだよ。しかし杉山くんと木梨さんの新婚旅行はまた当分先延ばしになりそうだな」
マモル「その木梨さんも昨日から体調不良で、休んでもらっています」
ショウ「本当か? じゃあ、職場にはマモルと杉山くんと、うちからレンタル移籍している上田、望月の4人ということじゃないか」
マモル「はい。顧問税理士さんにもいろいろご協力はいただいていて助かっていますが、実質4人の状態ですね」
ショウ「それで、望月は愚痴を言わずに前向きに働くようになっているのか?」
マモル「…… 残念ながらまだそこまでには至っていません。人数が少なくなって余裕がなくなってきたのか杉山も望月さんのイライラをぶつけるようになってきて、上田さんが間に入ってなだめているんですよ」
ショウ「おいおい、トラブル続出だな。ただでさえ望月のネガティブな姿勢が周囲の足を引っ張っていた状態で、貴重な戦力のふたりを欠いているとは…… 」
マモル「この1年間を振り返ってもトラブルはたくさんありましたからね。おかげで変化に対応できるようになったというか、免疫力がついた感じはありますよ。以前の僕なら完全にめげているでしょうね」
ショウ「マモルが前向きな気持ちを失っていないことが救いだな。経営者が不平・不満を言い出したらもう絶望的だ。この1年間の経験は確実にマモルを成長させたようだな」
マモル「実はなかなか切り替えが難しかったんですが、顧問税理士さんから八月の鯨という映画の話を聞きまして」
ショウ「おお、イギリス人のリンゼイ・アンダーソン氏監督の作品だな。上映されたのはもう30年以上も昔だろう。人間関係の難しさは老人になっても同じなんだと感じたよ。いや、むしろ希望の見えにくい高齢期の方が難しいのかもしれないな」
マモル「その映画には有名な台詞があるそうですね」
ショウ「ああ。リンゼイ・アンダーソン氏のメッセージだな。
『人生の半分はトラブルで、
残りの半分は
それを乗り越えるためにある』
という台詞だろう? 俺も起業当初、何をやってもうまくいかないときに顧問税理士から聞いた言葉だ」
マモル「その言葉を聞いて納得しました。それぐらい開き直って生きていけば、トラブルが起きても挫けることはないなと。トラブルを予測して回避することはもちろん必要なことでしょうが、トラブルが起こってもそれを乗り越えるのが人生だと思えれば、トラブルは人を成長させるチャンスにもなりますからね」
ショウ「そのトラブルはひとりで乗り越えることは難しい。人との繋がりが大切だ。あの映画はそれを伝えていた。ただ、マモルはこれまでの経験でそれを充分理解しているだろう」