※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
マモル「先輩、以前に僕たちが働いていた会社の中をこうしてふたりで歩くなんて不思議ですね」
ショウ「俺もこの中に入るのは、ここを辞めて独立して以来だよ」
マモル「しかし、びっくりです。この会社が倒産するなんて…… 僕が辞めた後も、時々会っていた同期に会社の業績は伸びてるって話を聞いていましたから。何があったんでしょうか?」
ショウ「その同期の従業員はどうしたんだ?」
マモル「しばらく前に辞めています。マネイジメントの面で不満があったそうです。その不満に耳を貸してくれる人もいなかったと言っていました」
ショウ「確かに業績をあげていた会社ではあったが、経営者がその成功にあぐらをかいてしまったんだろう。古くさい成果主義でしか従業員のモチベーションを維持できていなかった。いくらマネイジメントを徹底して効率化しても、人は本気でやる気にはならない。成果ばかり追って、人を育てる意識が不足していたために、多くの優秀な人材がここを離れ、中途半端に会社にしがみついているメンバーばかりが残ったということだろうな。そういった連中は変化を受け入れられず、今まで通りの仕事をしていれば常に成果をあげられると思い込んでいる。会社が崩壊するときは、だいたい内側が腐っているものさ」
マモル「先輩、いつになく厳しいですね」
ショウ「組織は秩序と安定を望むが、停滞するとよどむからな。自分への戒めだと思って受け止めているんだよ。同じ場所で、同じような仕事をして成功を収めていても、成功は不意に消えてしまうことがある。そこで新しい挑戦ができるか、その場に留まって消えてしまった成功を探し続けるかで命運は決まる。成功して自己満足し、足が止まればその足はどんどんと重くなっていくのさ。それが最悪の結果を招くことになる」
マモル「なるほど、確かに起業して成功し、金と名声を得た途端にダメになってしまうケースはありますね。そのまま永遠に上手くいくと錯覚してしまうからでしょうか?」
ショウ「ああ、おそらくな。マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏はその点を強く警戒している人物だよ。成功しても常に新しい挑戦をして、大きな失敗をしてもそこから学んでさらに成長している。成功に対して貪欲なのか、もっと別の使命感を持っていたのか、どちらにしてもハングリー精神を捨てることはなかった」
マモル「先輩は昔からビル・ゲイツ氏をかなりリスペクトされていますもんね。しかし、そう考えると、起業して失敗はしたくないですが、成功したとしても安心してはいられないですね」
ショウ「ビル・ゲイツ氏は
『成功は最低の教師。
優秀な人間をたぶらかして、
失敗などありえない
と思い込ませてしまう』
と述べている。そして世界的な大企業でそうなった例を具体的にあげているのさ。何を成功とするかは人によって違いはあるだろうが、仮に目標を達成しても、次の目標や課題を新たに見つけ出すことは大切だろう。俺はいつもそう自分に言い聞かせてここまでやってきた。今回の件を見て、その思いがまた強くなったよ」
マモル「そうですか…… 僕も肝に銘じておきます。しかし、今回ここに呼ばれたのは、やっぱり残った従業員の再就職先の相談なんでしょうか?」
ショウ「それ以外に俺たちがここに呼ばれることはないだろう。人手不足とはいえ、はたしてここに魅力ある人材が残っているのかどうか。マモルにとっては、橋本さんが抜けた穴を埋める人材を見つけるにはちょうどいいチャンスかもしれないな」