※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
ショウ「マモルは奥さんへのクリスマスプレゼントは決まったのか?」
マモル「いやー、何がいいのかってまだ悩んでいますね。ジュエリーやバックがいいんでしょうか? エステのチケットっていうのもいいかなって思っているですが」
ショウ「さすが、しっかり考えているんだな」
マモル「先輩は何をプレゼントするんですか?」
ショウ「俺は、クリスマスコフレだな」
マモル「へー。コスメの詰め合わせのようなギフトですよね。僕はまったくわからないです」
ショウ「まあ、日頃の感謝を伝える機会だからな、喜んでもらえるものをこっそりリサーチしておいたんだよ。ブランドもジル・スチュアートと決めている」
マモル「感謝の気持ちを伝え合うっていうのは、互いのモチベーションを高めるうえでは重要ですよね。その点では少し罪悪感もあって……」
ショウ「罪悪感? だって、プレゼントするんだろ?」
マモル「いえ、会社の従業員に対してです。予想していたよりも業績が厳しかったので、冬の賞与にも影響したんですよ」
ショウ「なるほど。そういうことか」
マモル「事務員の木梨さんの表情なんて、金額を見てあからさまに表情が引きつっていましたからね。今後のモチベーションが心配です」
ショウ「確かに報酬は人のモチベーションに影響を及ぼすからな」
マモル「ですよね……」
ショウ「ただな、成果主義の報酬で必ずしも人のモチベーションは上がるわけではないぞ。心理学者のエドワード・デシ氏は、大学生を2つのグループに分けてソマパズルを解かせるという実験をした。そして途中で8分間の休憩時間を設け、その時間をどう利用するのかを測定したんだ」
マモル「2つのグループの違いはどこにあるんですか?」
ショウ「1日目はどちらも同じ条件で実験したが、2日目はAグループには多く解けると報酬を与えると約束し、Bグループには何も伝えずにそのまま解かせた」
マモル「それはAグループの方が、成果が出るでしょうね」
ショウ「その通りだ。Aグループは休憩時間も必死に解いていた。問題は3日目だ。Aグループには報酬を与えることをやめたことを告げ、Bグループは相変わらずそのまま解かせた」
マモル「1日目の状態に戻ったわけですね」
ショウ「すると、3日目になってAグループの成果が落ちたんだ。逆にBグループは休憩時間もパズルを楽しんでいた。成果が上がった。つまり3日目に状況は逆転したことになる」
マモル「それは、Aグループはパズルを解くのが目的ではなく、報酬を得ることが目的になってしまったからでしょうか」
ショウ「そういうことだな。Bグループは課題に取り組むこと自体が内発的報酬になっているんだ。それを内発的な動機づけと呼んでいる」
マモル「内発的な動機づけが、長期的なモチベーションの鍵を握っているということですね」
ショウ「目先の成果報酬は、内発的動機づけの弊害になる可能性があるということだな」
マモル「報酬で従業員のモチベーションを上げようというマネジメントじゃ、通用しなくなるのか…… じゃあ、どうすればいいんでしょうか?」
ショウ「アップル社の共同設立者であるスティーブン・ジョブス氏は、『もし今日が人生最後の日だったら、今やろうとしていることは本当に自分がやりたいことだろうか?』という言葉を残している」
マモル「本当に自分がやりたいこと……」
ショウ「やりたくないことを無理にしているのであれば、内発的動機づけには繋がらない。本当にモチベーションを高めるためには、やりたいことをしている。自己実現できているという実感が必要だろうな」
マモル「前時代的なやり方では、逆に従業員のモチベーションを下げてしまう危険性があるのかー。知らなかったです。問題は、どうしたら従業員に、やりたいことをしていると思ってもらえるかどうかですね」