【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
起業についての相談先として税理士を選択した私は、3日間かけて近郊の税理士事務所のホームページを調べていった。
「よし、ここに相談してみよう」
最終的に絞り込んでいった結果、5つほどの事務所が候補に残ったので、その中からもっとも上位に表示されているところを選んだ。Googleで上位表示されているということは、それだけ多くの人がこのホームページを訪れているというで、人気があり、評判もいいのではないかという判断である。
とりあえず今日は祝日なので、電話するのは明日にしよう。少なくとも悩んで立ち止まっていたところからは前進できた。アドバイスをくれた天海さんに直接御礼を言いたいところだ。今日はあの漫画喫茶に来ているだろうか?
この数日はずっとパソコンのモニターとにらめっこ状態だったから、久しぶりに外の空気を吸った。漫画喫茶までの道筋で、いろいろなお店の前を通る。いつもなら何も感じず通り過ぎるだけだが、どこの店も一大決心をして、いろいろな苦労をして店を始めたのだと思うと、尊敬の念が込み上げてくる。
「あれ? 天海さんだ」
目の前の漫画喫茶からちょうど天海さんが出てきた。私はすぐに挨拶に向かう。状況を伝えると天海さんはいつも以上に楽しそうな笑顔で、
「そうかい、そうかい。そりゃよかった」
と答えてくれた。
「ついでじゃから、少し散歩でもしながら話でもせんか」
今日の目的は漫画を読むことではないので、気分転換のためにも天海さんの散歩に付き合うことにした。春の陽気で散歩も心地いい。
「相談相手に税理士を選んだか。はじめさんの目の付け所はなかなか良いぞ」
「そうでしょうか。でも、大きな税理士事務所が、こんな経営について素人の起業の相談に本気で乗ってくれるのか心配ですよ」
「税理士にもいろいろなタイプがあるからの。
大きい税理士事務所だと、
スタッフのみが対応して、
税理士が対応してくれないところがほとんどじゃ。
また、創業については面倒くさいので、
扱わないケースもある。
創業について、
メインで取り組んでいる事務所を選ぶべきじゃな」
「そうなんですか」
歴史にしか興味がない老人だと思っていたので、まさか天海さんから税理士についての話を聞けるとは驚きである。
「開業資金はあるのか?
もしないなら、
創業融資のノウハウがあるところを選ばないと、
何かと不便じゃ。
創業融資に限らずだが、
金融機関との繋がりは大事だから、
創業融資の実績はよく確認しておきなさい」
そう言われてみると、創業融資の実績まではよく確認していなかった。
「会社設立にも対応してくれるのか、
帳簿付けまで対応してくれるのか、
といった点もポイントじゃな。
SEO対策をして、ホームページをGoogleの検索上位にすることは可能じゃから、上位表示されている事務所が必ずしも信用性の高いところだとは限らんぞ」
SEOなんて単語が天海さんの口から飛び出すとは、これまた驚きだ。いったい何者なのか?私はこのときになって初めてこの老人の正体が気になった。もしかすると天海さんは起業をした経験があるのかもしれない。
「どれ、わしの家に着いたぞ。ちょっとお茶でも飲んでいくか?」
「ここが、天海さんの家ですか?」
自宅兼事務所なのか、家の表札とは別に、看板が掲げられている。
「天海税理士事務所・・・・・・」
看板にはそう書かれていた。確か、ホームページを調べていって、5つの候補を絞った際にその名前があったはずだ。まさか天海さんの事務所だったのか。
こうして私はさらなる一歩を踏み出すことになった。