【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
夏期講習会募集を開始したのと同時に、私は塾生の満足度を向上させるべく、現状の勉強の姿勢や目標、この夏の課題点などを明確にしていくカウンセリングを個別に実施することにした。
「募集、募集」と新規生にばかり気を取られて、塾生の対応をないがしろにしないようにという顧問税理士の天海さんのアドバイスだ。天海さんはいつも新しく、大切な気づきを与えてくれる。起業して1年あまり、経営初心者の私がここまで何とかたどり着けたのは、まさにこの天海さんのアドバイスがあればこそだ。
早急に計画を立て、塾生へのカウンセリングを始めた。予定では1人あたり30分程度。それでも20人以上となると10時間はかかる。授業前後、自習室を利用している時間などをうまく活用して、どんどんカウンセリングを進めていった。
中学3年生で部活も頑張りつつ、勉強も切磋琢磨している環境だけあって、生徒の受け答えも予想以上に素晴しいものばかりだった。この夏への勉強の意気込みが伝わってくる。
ただし、そうでない塾生もいることに気がついた。あきらかに塾での勉強がマンネリ化しており、緊張感がない。学生アルバイト講師に対しても完全に友達感覚で、講師と生徒という関係にもメリハリがなかった。目標があやふやで、成績が低迷している生徒がそういった傾向にあった。
ここは厳しく指摘しておく必要がある。この状態で夏期講習会に参加しても、学力は伸びないだろう。そうなると次なる退塾騒動が勃発するのは火を見るよりも明らかだ。
サードプレイスとして、リラックスして勉強を楽しめる環境作りはもちろん大事だが、指導者としては、甘やかしてばかりはいられない。ダメなものはダメ。あくまでもここは勉強を頑張り、将来の夢の実現に向けて前進していく場所なのだ。
カウンセリングをしていて特に気になったのが春から入塾した男子生徒2名。こちらの問いかけにもてきとうな回答で、椅子に座った姿勢もよくない。「面倒くさい」という言葉を何度か口にした。初心を忘れて、完全に中だるみの状態である。
叱ることは褒めることより難しい。良好な人間関係が構築されていないと何も響かないからだ。この年頃は素直に指摘を受け入れず、へそを曲げてしまうこともよくある。感情的になって怒ってしまえば、さらに良くない方向に進んでしまうので、感情的にならないことが大切。このさじ加減が難しい。
そうだ、天海さんが叱るときの心得として、徳川家康の言葉を引用していた。確か、
『叱るときは
百雷の落ちるように叱れ』
だったはずだ。
長々うじうじと指摘しても
恨みつらみが残るだけ、
できるだけ短く、
しかし中途半端では
同じ事が繰り返されるので、
百雷を一撃に込めて叱ることが重要。
生徒が気持ちを切り替えて、夏に向かえるよう後押しをするための大事な力添えである。ここは決意を固め、断固たる行動に出なければならない。私は意を決して、閉め切った面談室からでも教室中に響き渡るような大きな声で、男子生徒を叱りつけた。たるんだ気持ちを吹き飛ばすためだ。さすがに生徒の表情はサッと変わった。
考える時間をおく。叱られたり、怒られた経験のない生徒はパニックに陥ることもあるので、注意が必要になる。自分が全否定されたと思い込んでしまうケースもある。だからこそ、叱るときは短く、強く、そしてすぐに「なぜそんなことを言ったのか」、「自分が生徒にどうなってほしいのか」、「応援している、期待している」といった生徒への思いを伝える。
はたして塾生はどう感じ取ってくれるのだろうか。