12月上旬は塾業界にとっては1年の中でもかなりハードな時期にあたる。
受験生は受験間近で、特に中学受験はカウントダウンの状態。
本番でいかに実力を発揮するのか、細かな答案作成のチェックやアドバイス、メンタル面のフォローもしていかなければならない。
受験生の最終仕上げは最も重要な業務だが、中学1・2年生は学校での定期試験のまっただ中なので、こちらの対策も同時に行っていく。
さらに冬期講習会まで2週間あまりとなり、募集活動や新規生の学習面談、冬期講習会の授業準備とやるべきことを挙げると切りが無いほどだ。
さすがに学生アルバイト講師にも疲労の色がはっきりと見られるようになってきた。
大学生だけに学校のレポート提出などが重なり寝る暇を惜しんで働いてくれている者もいる。
精神的な余裕に欠けるため、些細な指導の行き違いが、学生アルバイト講師同士での感情的な言い合いに発展するケースも発生してきて、雰囲気はかなり重い。
以前にもそのようなことがあったが、抱えている塾生数や講習会生の数が増えると、その度合いも大きくなり、なかなかこの重苦しいムードを払拭できない。
忙しすぎて講師一人ひとりと向き合って話をしたり、悩みを聞いたりする時間もまったく取れなくなっていた。
中学生の定期試験はひとまず終了し、少しだけ負担は減ったものの、雰囲気は変わらず。
この状況で受験本番や冬期講習会を迎えるのはとてもリスクが高いように感じ、私はまた顧問税理士の天海さんに相談することにした。
「そうか、そうか、忙しさでみなさん心に余裕が無くなっているのか」
天海さんは私の意見をいきなり否定することは絶対にしない。
どんなことでもまず私の言葉を繰り返す。
コーチングスキルのリフレイン(おうむ返し)というもので、相手は自分を受け止めてくれたとほっとして、次々に思ったことを口にできるようになる。
「ですからなんとかみんなの心を癒やし、ポジティブな方向へ引っ張っていきたいんです」
「癒やしとモチベーションのアップじゃな」
「そうです、ここでモチベーションを高められる働きがけをしていきたいんですよ。でもそんな機会もなくって」
「みなさんと時間を共有する機会がないのかの」
「まったくないわけではないです。天海さんを招いた忘年会も今週末に開催しますし・・・・・・ そうか、その機会を利用すればいいのか。でもどうやって忘年会でモチベーションを上げられるんだろう・・・・・・」
「はじめさんが大手の進学塾で講師をしていたときはどうじゃったんだ? モチベーションが高まった思い出は?」
「そうですね・・・・・・ 忘年会の際にみんなの前で表彰されたことがあって、そのときは嬉しかったですし、忙しくても頑張ってきて良かったと思いました。その後の冬期講習会時の入会活動も精力的にできましたし、努力してきたことを評価してもらえるのが一番のモチベーションアップだったかもしれません。・・・・・・ そうか、なるほど、自分が逆の立場でそういった機会を作っていけばいいのか」
「アメリカの実業家であるメアリー・ケイ・アッシュ氏は、何千億円という売上を誇るメアリーケイコスメティックス社を創設して成功したが、彼女の言葉にはこのようなものがある。
『誰でも高く評価されたいと思っている。
だから誰かを称賛するなら隠してはダメ』。
さらに彼女は、
『自分がして欲しいと思うことを
他人にもすること』、
『称賛と励ましが
すべての人を成功に導く』
とも語っておる」
「なるほど、クリスマスのノリでただ飲むだけの忘年会じゃ意味がないですね。ここまでの個々の頑張り、全体の頑張りを称賛できる機会にしていきます」