【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
石川の提案で、全国の中高一貫校に通う生徒向けのオンラインレッスンの無料体験会を開催した。
私の塾のWebサイトで告知しただけでなく、塾検索サイトにも依頼して広告を掲載したところ、中学3年生の申し込みが4名、高校1年生の申し込みが4名があった。
反応は上々で、すべて数学のレッスン希望と予想通り。
酒井から協力したいとの申し出があったので、私が2名、石川4名、酒井2名と割り振りを決め、対応していく。
さすがに中高一貫校だけあって学校の学習進度は公立の学校よりも1年から1年半早い。
中学3年生だと数Ⅰ・A、高校1年生だと数Ⅱ・Bを扱うことになる。
しかも学校によって学ぶ順番がバラバラで、進度差が大きいため、同じ学年でもレッスンの準備はまったく異なった。
もちろん通っている学校も全員異なり、都内に4名、大阪・兵庫に4名。
ニーズもバラバラで、国立大学の医学部を目指す生徒もいれば、とにかく現状の理解できていない単元を補強したいという生徒もいる。
「今はPC上のExcelでレッスン内容や要望などを入力して生徒管理していますが、今後オンライン生徒が増えて、担当者間での情報共有をしていくとなるとExcelではやや不便ですね。Excelはあくまでも表計算ソフトなので」
石川からそのような発言を聞いて、確かにここまで情報が複雑化し、他科目の担当者も同時に情報を確認したり、入力したりすることになると、
よりDX化(Digital Transformation)
を進めていかなければならない
と課題点も見えてきた。
別日に顧問税理士の天海さんの事務所に電話する機会があったので、情報共有の仕方や顧客管理についてアドバイスを受けることにした。
「CRM
(Customer Relationship Management)
のことじゃな」
「CRM? それは何ですか?」
「広義では顧客との良好な関係を構築するすべのことじゃが、狭義では顧客管理するためのツールのことじゃ。Excel CRMよりも顧客管理に特化したCRMを利用した方が何かと便利じゃぞ」
「導入にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?」
「はじめさんの学習塾の従業員の規模であれば、1ユーザーあたり料金が発生するクラウド型CRMかの。それであれば月額1万円ほどで利用できる」
「意外に安いですね。それでしたらすぐにでも導入できます」
「機能性を高めて、オプションを増やしていけば費用も比例して高額になる。自社にサーバーを設置して自社だけで利用するオンプレミス型CRMだと初期費用で200万円ほどになるケースもあるの。外注してオリジナルCRMを構築すればおよそ100万円じゃ」
「現状としてはそこまでの資金は用意できないですし、そこまでの機能も必要ないと思います。まずは目の前の生徒やご家庭に全力で対応し、その結果やリアクションをCRMに入力して共有していくこと。その内容を振り返りながら全員がさらに良質でニーズに見合ったサービスを提供していくこと。この2点ができればいいなと思います」
「うむ。
CRMを導入しても
成功しないケースは、
導入が目的になっていて、
どう使っていくのかが
明確になっていないような場合じゃ。
特に現場で理解を得られていないと宝の持ち腐れになってしまう。その点、はじめさんのところは従業員から提案されたわけじゃから、有効利用しやすい環境が整っておるの」
「夏期講習会募集も始まりましたので、一般生の有益な情報もしっかり振り返ってアプローチできるようにCRMを使っていきたいですね」