2024年も気がつけばもう2月中旬。
「冬来たりなば春遠からじ」の言葉通り、冬が来たと思ったら春はもう目前である。
私の学習塾でも中学受験組みのオンライン生が全員合格という華々しい成果を上げ、春からの中学校生活に向けて期待が大きく膨らんでいた。
この全員合格の報告は、Webサイトで大々的に報じただけでなく、教室の窓にも外向けに張り出しアピールしている。
合格体験談をすぐに依頼すると、みんなが素晴しい文章を書いてくれ、生徒と親の笑顔のガッツポーズの写真と共にWebサイト内や教室内で紹介した。
これから高校受験をむかえる中学3年生の面々にもこの一報は強い追い風となっており、生徒・講師の中に今まで以上の勢いを生み出していた。
しかし、物事というのはなかなか思うようには運ばないもので、ここにきて危機感を募る事件が起きた。
インフルエンザの大流行である。
これは地元だけに留まらず、各地のオンライン生にも広がっていた。
どの学校でも学級閉鎖はいくつか発生しており、中には学年閉鎖になっているところもある。
実際にインフルエンザにかかって塾を休む塾生の数も増加していた。
インフルエンザにかかると、仮に熱が下がり体調が回復しても、周囲への感染を配慮して1週間は塾を休んでもらう取り決めになっている。
この時期の1週間の休みはかなりの痛手だ。
講師側がそう感じているのだから、生徒はもっと不安に感じているに違いない。
塾生から10人の発症が確認された日、オンライン部門を担当している石川からこんな提案があった。
「インフルエンザで休んでいて学校や塾に参加できない生徒向けにオンラインレッスンをするのはどうでしょうか?」
というものである。
これまでお休みした生徒の振替対応はしてきたが、今回は欠席する生徒の数が多く別日対応が調整できず難しい。
しかも3月はじめの受験本番までもう2週間しか残っていない。
救済処置としては有効な手段ではあるが、問題点は現状としてはオンライン対応できる講師の数にそこまでの余裕がないことである。
「最後の仕上げということもありますし、個別指導ではなく、集団指導でのオンラインレッスンであれば、私も協力できますよ」
石川は対応人数のことを考慮し、集団レッスンの案を提示してきた。
確かにそれであれば対応可能だ。
私はすぐに顧問税理士の天海さんに電話で相談してみた。
「なるほどの、面白いアイディアではないか。はじめさんはどう考えておるのじゃ?」
「個別指導は学力別にして生徒のニーズに合ったレッスンができるからこそ満足されているシステムです。それを受験間近なここにきての集団指導で、クレームにならないのか心配ですね」
「それでは学力別に大きく2つに分けてみたらどうかの。片方が演習している間に片方の解説をする。それを交互に行えば要点は大きくズレることはないのではないか」
「確かにそうですね。オンラインですからミュートにしておけば自分の演習時間に他へ向けたレッスンの声は入りませんから集中して取り組めます。それならインフルエンザにかかることを心配して欠席している生徒も参加したがるかもしれません。全体に向けて受験本番の心構えについてまとめて話ができる機会にもなるので好都合です」
「昔の中国の戦国時代に外交官として名をはせた蘇秦氏のエピソードが戦国史に記されており、そこには
『禍を転じて福となし』
という一文がある。
もしかすると
この危機を乗り越える手法によって、
はじめさんの学習塾は
さらに顧客満足度を高めるサービスが
できるチャンスになるかもしれぬぞ」
「まさに塞翁が馬ですね! ピンチをチャンスに変えられるようすぐに取りかかります!」