【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
2023年も3月下旬となり、早くも春期講習会、新年度スタートが迫ってきた。
今年はそちらの募集、入会、継続活動を例年通りに行いながら、さらに高校部の受け入れもスタートした。
カリキュラムは、チャート式を使っての英数の先取り予習。
戦略としては大手予備校との棲み分けで、学校の授業にしっかりついていける学力を維持しつつ、大学進学の力をつけるための底上げを行う。
有名大学や一流大学を希望する生徒の対応ではなく、現状として大学進学が厳しい生徒の補強をメインとすることにした。
実際のところ大手予備校のカリキュラムや、一方通行の動画授業を受けても、学力が低い生徒たちはほとんどついていけない。
もちろん担任制で定期的な面談を行い、状況を確認したり、志望校合格に向けてアドバイスもしていくのだが、具体的な勉強の質問には一切対応していない。
そこが私の学習塾の入り込む余地だ。
そして、今年高校受験に合格した中学3年生の生徒のほとんどがその範疇となる。
つまり今まで通り個別指導を行い、大学合格を目指していくスタイルである。
学生アルバイト講師の中には高校英語や高校数学の指導に対応できる者がいるし、私も数学Ⅰ・Aや数Ⅱ・Bまでなら対応可能だ。
今の高校部生徒数2名という人数であれば問題なく指導していくことができる。
後はどのくらいの進度で進めていくのかという問題だが、ここはやはり個人の状況に合わせていく必要があった。
中高一貫の学校に通っている生徒は、早いところだと中学2年生の時点でもう数Ⅰ・Aに扱っている。
公立高校の進度に合わせていたら、追いつくのは至難の業で現役合格は難しくなる。
しかし、2名の学力を考えると数学は先取り予習までの余裕はほとんどないだろう。
まずは英語を高校2年生の秋までにすべて完了したい。
初めての試みなので必然的に高校部の担当者と打ち合わせをする時間がかなり必要になる。
今後の定期試験対策、模試対策についても早急に決めて動いていく必要があるだろう。
例年以上に多忙な中ではあるが、状況を伝えようと、夜に顧問税理士の天海さんに電話をした。
「マーケットの分析の結果、私の学習塾でも高校部の市場に入り込む余地があることがわかりました。ただ、高校生にレッスンする以上に、その準備に相当な時間がかかりそうです。高校部の担当者にもいろいろとお願いしていくことになるでしょうから、人件費もアップするのは間違いなさそうです」
「スタートが厳しい運営になるのはやむを得まい。問題は高校部への継続を決めた2名の生徒を満足させられるサービスを提供できるのかどうかじゃろうな」
「そうですね、この2名を満足させられたら、評判で残りの21名の卒塾生の多くが戻ってきたくなるでしょうし、新規生の入会も期待できます。そうなった場合を考えて今から高校部の研修も行っていく予定です。英語と数学のレッスンを担当できる学生アルバイト講師をあと5名増やしたいと考えています」
「市場を拡大しても、
サービスの供給が追いつかなければ売上は伸びず、
投資負担によって経営の足を引っ張ることになるので
注意が必要じゃ。
他のサービスが手薄になるリスクもある。くれぐれもコングロマリット・ディスカウントにはならぬように用心せねばの」
「本当にこの戦略が成功するのか、正直不安です」
「永谷園の創業者である永谷嘉男氏の言葉にはこうある。
『小規模な企業が生き残るには、
局地戦に勝て』
まさにその通りの実践ではないか」