【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
春期講習会が閉幕し、12月の冬期講習会からの繁忙期もようやく終りを告げた。
受験生を相手にしている学習塾では、大晦日も正月もないので、本当の意味でここが年度末となる。
ここまで怒濤のように働いてきたために、気兼ねなく休める4月になると一気に張り詰めていた糸が切れるのが学習塾講師のあるあるだ。
あまりにも働き過ぎた影響で、本当に丸々一日休んでいいのかと逆に罪悪感を覚えるほどである。
それだけ全身全霊をかけて駆け抜けてきたという証拠だろう。
通常の状態でもそういった時期なので、今年の反動はかなり大きい。
自分の過去を振り返り20年以上の講師生活を紐解いてみても、昨年から今年以上に精力的に働いたことはなかったからだ。
思いついたことは全て試したといっていいだろうし、生徒や家庭のためになるのであればと限界まで対応してきた。
だからこそ新年度スタートの塾生数・売上が昨年を下回ってしまったことの衝撃は大きい。
自分は本当にやれることをすべてやりきったのだろうか。
実践したことで失敗を招き、それがこの結果に反映しているのではないだろうか。
ついついそんなネガティブな想いにかられてしまう。
もし、春期講習会中に顧問税理士の天海さんから、起業3年目を迎えるにあたってモチベーションには注意するようアドバイスを聞いていなかったら、気持ちは完全に切れていたかもしれない。
春の温かな日差しのもと、私は散歩も兼ねて天海さんの事務所を訪ねた。
天海さんは優しげな眼差しで私を迎えてくれた。
それだけでもなんだかホッとする。
「ようこそ、はじめさん。ときに、魔王などの作品を世に生み出し、シューベルトが曲をつけたことで有名なドイツの文豪ゲーテ氏の言葉に、
『焦ることは何の役にも立たない。
後悔はなおさら役立たない。
焦りは過ちを増し、
後悔は新しい後悔を作る』
とある」
私の表情を見て察したのだろう、開口一番に天海さんはそう話しかけてきた。
そう、焦りと後悔にとらわれると負の連鎖を引き起こす。
それは人生で何度も経験してきた。
わかってはいるのだが、これまでの人生の中で一番頑張ってきたのにという気持ちは簡単には拭い去れない。
気持ちを込めてきたからこそ、気持ちの切り替えが難しかった。
「春期講習会の後半の入会も期待していたような成果をあげられませんでした」
「うむ」
「体験会も講習会も手応えはあるのですが、なかなか結果がついてきません。塾生への対応もみんな頑張ってくれているのに・・・・・・」
思いもかけず涙が込み上げてくる。
自分自身でも驚いた。
「春期講習会最終日に入会5名は決まると確信していたのに、結果はゼロでした。みんな悔しがっていて、申し訳なく思います・・・・・・」
「うむ」
「夏には、夏までにはもっと活気のある教室にしていこうと声をかけましたが、一番落胆の色を隠せなかったのは私でした」
「夏までに挽回できるという気持ちがあるのであれば、それを実現できるじゃろう。今は辛抱しどころじゃ。
『Don’t judge each day
by the harvest you reap
but by the seeds that you plant』
の心がけじゃよ」
「どういった意味なのですか?」
「結果はすぐにでるものじゃないから焦るなという意味じゃな。
毎日を、その日の収穫高ではなく
蒔いた種で判断しなさい」
「蒔いた種」
「はじめさんはこの2年間いい種を蒔いておるぞ」