【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
2023年も気がつけばもう9月下旬。
今年も残すところ3ヶ月あまりだ。
夏期講習会は大成功に終わったが、その後に流れが変わり、オンライン部門の生徒が3人退塾するという危機をむかえた。
そこは環境を整え、学生アルバイト講師とのコミュニケーションも明るい話題を多くしていくことで気持ちを切り替えると、退塾意向も不思議に止まった。
しかし問題は続き、今度は中学3年生男子のサボりが発覚。
家庭には塾に行くと言って家を出て、実は友達と街で遊んでいたのだ。
担当していたのは新人講師の本多。
若いだけでなく、熱血的で気が短いところもある本多は烈火の如く怒って、生徒を見つけ出し塾に引っ張ってきた。
今回は費用面で相談があり、たまたま私がその生徒の母親と電話で話をしていて塾に来ていないことが判明したのだが、実はこれまでも数回同じ事をしていたようだった。
この生徒と本多の関係は夏期講習会時からギクシャクしていた。
真っ向から本音をぶつける本多に対して、生徒はあまり自分の主張を口にしない大人しいタイプの生徒なので相性は悪かったのかもしれない。
人手不足と、本多が成長する機会になると思い2学期が始まっても担当を続けさせたが、生徒はどうも本多に不信感を持っているようだった。
というのも生徒は夏期講習会中に自習室で2度ほど数学の質問をして、本多の説明はどちらもわかりにくく納得できなかったからだ。
本多は数学の知識がないわけではないが、わからない相手の立場に立って考える視点が弱い。
ついついそんなことはわかるだろうという感じで強引に説明を続ける癖があった。
夏期講習会後の私の学習塾の雰囲気が悪いことを心配して、顧問税理士の天海さんが電話をくれたのは、生徒、母親、私、そして本多を交えて四者面談をした日の夜の事だ。
「この件があって塾向けの入退室管理システムを導入することにしたんです。以前から検討はしていたのですが、本当に必要な仕組みなのか疑問があり後回しになっていたのですが、やはり重要役目を担ってくれるシステムだと判断しました」
「塾生証のカードをかざせば親御さんのスマホに通知されるものじゃな」
「はい。生徒数が60名以下であれば税込み3,300円で利用できるリーゾナブルなサービスを見つけたので、来週からすぐ開始します。これでズル休みはできなくなりますね。母親も塾を辞めさせるつもりはないし、生徒自身も辞めたいとは思っていないようなので、問題の解決に一歩前進しました」
「顧客からの信頼度を高めるためにDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことは今の時代には必要なことじゃ。
DXはあくまでもハード面。
人と人の繋がりの根本である
相手を思いやる心も伴っておらねばの」
「そうですね。本多は今回の件であきらかに生徒に対して嫌悪感を抱いています。担当を変える必要性も感じています」
「以前会った際には、そんな感じの若者には見えんかったがの」
「おそらく生徒に嫌われていることに気づいているからでしょう。自分からシャッターを下ろした感じですね」
「であればDXを進めると同時に、本多くんの成長も促す必要があるの。ノーベル文学賞を受賞したこともあるアイルランドの作家、バーナード・ショー氏の言葉に
『嘘つきに与えられる罰は、
少なくとも彼が人から信じられなくなる
ということではない。
むしろ、彼が誰も信じられなくなる
ということである』
というものがある。生徒の将来のためにも本多くんには教育者として何をすべきかを改めて考えてもらうべきじゃな」