【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
日本政策金融公庫からの融資が正式におり、夏からの新規開校準備は着々と進んでいる。
大手の学習塾に勤めていた頃は、授業と講習会の募集・入会活動に忙殺されていた日々だったが、今はほとんどのことを自分ひとりでやらないといけない。振り返ってみると春から1日も休みを取っていないことに気づいた。それがまったく苦にならないのは、それだけ充実した日々を送っているからだろう。
ただし、税理士の天海さんのアドバイスに従って、アウトソーシングを利用しているからこそここまで順調に準備が進んでいるのだ。
夏期講習会用のチラシは依頼して作成し、印刷まで完了しているし、ホームページも立派なものを作ってもらった。広告費は予定よりもかかってしまったが、それ以上に効果が期待できるものになっている。リサイクルサイトを利用して備品を揃えたので、トータルコストは予定通りに収まった。
開校まで残り1ヶ月あまり。内装はすっかりできあがっているし、外看板も完成。道路側の窓全面にはカッティングシートを貼り、ウィンドウサインでさらにアピールできるようになっている。
入塾したいという電話がいつ鳴ってもおかしくはない状態だ。
「とはいってもチラシの折込は1週間後だし、学習塾のポータルサイトに掲載されたのは昨日からだから、最初の一名が決まるのはもう少し先かな?」
自分のデスクでパソコン作業を行いながら、未だに一度も鳴ったことのない電話を見つめた。
視線の先の本棚には、小学生低学年から高校生までの参考書や問題集を買いそろえて並べてある。個別指導なので、どの学年のどの科目を希望してくるか生徒次第だ。これまでは理系の科目専門だったが、国語・算数(数学)・社会・理科・英語、どの学年のどの科目も教えられる用意を進めている。おそらくニーズが高いのは中学受験の算数や国語、後は大学受験に備えての数学・英語といったところだろう。
10人までなら同時に入室できる環境を整備したが、実際に10人を一度に相手にすることはできない。質問対応などを個別にしていくことを考えると、一度に入れられる人数は4人が限界。残りに机は自習用として無料で開放してもいい。そこで勉強をして、質問内容をまとめてから1時間くらいを授業の中で質問をし、私が解説するのがベストだ。
そう考えていくと、当初の見込みであるスタート人数10人は簡単にクリアできそうに思えた。小学生には夕方の時間帯、夜には高校生の時間帯と棲み分けすれば50人は受け付けられる。月謝15,000円で、50人であれば75万円の売上だ。しかも高校生の利用回数を増やしたコースであれば20,000円。高校生の割合が増えればさらに売上は伸びる。
天海さんのおかげで準備が順調に進み、ポジティブな発想ばかりが頭の中を巡っている。起業に悩んでいた頃のネガティブな自分の嘘のようだ。
「天海さんは、
案ずるより産むが易し
という言葉をよくかけてくれていたけど、まさにその通りだな。
実際に行動に移していくと、
次のイメージも湧きやすいし、
前に進んでいるので自信も湧いてくる。
以前であれば自分が起業するなど到底無理な話だと夢物語のように感じていたのは、行動しなかったからそう思い込んでいたんだな」
さあ、おおよその準備は整った。後は、生徒を迎入れるだけである。このときの私は本当に希望に満ちていた。
しかし、現実はそう甘くはないことをこの1週間後に知ることになる。