【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
夏期講習会の受け付けを開始したものの、いつまで待っても申し込みがなく、いてもたってもいられなくなった私は、天海さんの税理士事務所を訪れ、厳しい指摘を受けていた。
「天海さんは、私が見失っていることがふたつあるとおっしゃいました。ひとつが日本政策金融公庫の融資の返済についてでしたが、もうひとつは何なのでしょうか?」
お茶をゆっくりとすすっている天海に、そう必死に問いかけた。
「ここまで話せばはじめさんにも見えてきているはずじゃが」
「融資の返済のことや、自己資金の残高を考えると、この5ヶ月間が正念場だということはわかりました。電話が鳴るのを待っているだけではいけないことも痛感しました・・・・・・、
そうか!
待ってるだけだからダメなのか」
自分で言葉にして発してみると、頭の中で考えているだけより、思考は整理される。私は何を見失っているのか、その正体に気づき始めていた。
「まずは初心に返ることが肝心じゃ。どうしてはじめさんは起業しようと考えたのか、何がしたいのか、その目的に立ち返ってみてはどうかな?」
「教えるのが好きなんです。わかったときの子どもの笑顔が見るのが好きですし、努力の成果を実感できるように育ってほしいという願いがあります。今までは大人数相手でなかなか個の関わりができませんでしたが、新しい塾を開校して、もっと自由に、もっと深く子どもたちに関わっていきたいです!」
「はじめさんのその思いははたしてどこまで伝わっているのかの?」
チラシには記載した。しかし、システムの内容や料金体制などの説明が多く、そこまで読んでもらえていないのかもしれない。ホームページ上にも同じように自分の思いを掲載しているが、アクセス数はほとんど伸びていない。
まったく興味を持たれていないのだ。
気づかれていない。
チラシやホームページはどこの塾でも広告活動として採り入れているので、その中に埋もれてしまっているのかもしれない。
もっと積極的なアピール活動が必要なのだ。掃除をして、電話を待っているだけでは現状は打破できない。
まずは、生徒の登下校の時間帯に直接チラシを手渡しすることのできるハンディングだ。その中にはもちろんかつての教え子もいるだろうから、そこから話題になる可能性は充分にある。
毎日1~2時間、近所の住宅に直接チラシを入れに回るポスティングという手もある。新聞に折り込まれているチラシよりも、別の時間に単品で郵便ポストに入っているから目立つ。
TwitterやInstagramといったSNSももっと積極的に利用できるはずだ。開校前の教室の風景などを発信して、ひとりでも多くの人に魅力を伝えていこう。
やれることはまだまだあった。そこまでしなくてもこの価格と定番の広告活動で目標を達成できるのではないかという希望的観測があって、行動がストップしてしまっていたのだ。
1%でもいい、
伝える努力をしなければいけない。
時間がある限り、
自分の思いを伝える行動をしていこう。
「ホッホッホ、はじめさんの顔付きが変わったわい。どうやら何かに気づいたようじゃな。家康公の遺訓にこのような言葉がある。
『及ばざるは過ぎたるよりも勝れり』。
論語を家康公なりに解釈したものじゃな。及ばぬのならそれを補う工夫と努力をすればよい。そうすればまだまだ成長はできる。及ばぬことに気づかぬと、その機会すら失ってしまうからの」