【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
「ほう、それは深刻な問題になっているようじゃな」
突然きた退塾意向への私の対応が不十分だったため、親の怒りに火を付けてしまい、困った私は急遽、顧問税理士の天海さんの事務所を訪れていた。
時刻は午前10時。退塾意向の生徒は学校で勉強している時間だ。今日の夕方には両親と生徒を交えた面談を実施することになっている。退塾意向を止めるということより、怒りを鎮めて、これ以上周囲に波及させないということが優先されそうだ。
「それで、休暇中の2人の学生アルバイト講師とは連絡はとれたのかの」
「はい。石川、酒井ともに電話での連絡はついています」
「何か新しい事実確認はできたのかな?」
「ええ、実は退塾意向の中3生は、女子バレー部のメンバーのひとりで、最近どうも元気がなかったようです。塾に来たときには酒井が気にして声をかけてくれていて、右膝を故障したことでレギュラーを外されて、同じ塾生にポジションを取られ落ち込んでいたことがわかりました」
「はじめさんはそれには気づいておったのか?」
「いえ、恥ずかしながらまったく気づいていませんでした。自習室に来る機会が減っているなということと、宿題の取り組みが雑になってきていることは気になっていたのですが、対応が後回しになってしまっていて・・・・・・ それで退塾意向の電話が来たときに、レギュラーを取られた生徒の名前を出してしまって、その子のように努力をしていけば成績は取れますよというようなことを言ってしまいました」
「それを聞けば生徒さんはさらに落ち込むことになるじゃろうな」
「最悪なことに電話を親から本人に替わってもらってから、直接そのことを言ってしまったんです。そこからは、生徒は泣いてしまうし、それを見て親は怒り出すし・・・・・・ なんとか今日話し合う時間をもらうことはできましたが、はたして本人が来てくれるのかどうか」
「相手は多感な年頃の子どもじゃからの。しかし、学生アルバイト講師が気づいて声をかけておったのは救いじゃな」
「そうですね。なので、今日の面談には酒井にも参加してもらうことになっています。確実に私よりもその生徒のことをよく理解しているようですから」
「学習塾では成績の伸び悩んだ生徒や保護者からのクレームは避けては通れないじゃろう。
クレームを予防する策は、
日ごろからのコミュニケーションを
蜜にすることじゃ。
生徒の悩みや不満がわかるじゃろうし、その対応を保護者に伝えることによって信頼を得ることもできる。
逆にコミュニケーション不足は
クレームを増やす結果になっていく
ということじゃな」
「はい。今回の件は完全に自分の生徒とのコミュケーション不足が招いた事態です。最近は生徒の成績や塾生数、売上といった表面上の数字ばかりを気にしていましたし、労力を減らすためにと学生アルバイト講師の研修に偏っていました。私自身、肝心の生徒への対応が疎かになっていたと思いますし、もっと塾生の様子について学生アルバイト講師たちとコミュケーションをとっておくべきだったと後悔しています。これが得意絶頂になっているときに生れる隙だったんですね」
「生徒の状況に関する情報は重要じゃからな。
講師の報告の際には
優先順位を高く設定して
大事な情報は迅速に共有する
必要もあるじゃろう。
情報を事前に収集できていれば対応も違ってくるじゃろうからサービスの質も向上する。このケーススダディーは学生アルバイト講師とも共有すべきじゃぞ」