【このお話では、サラリーマンを続けていた40歳の松平はじめが、起業に挑戦し、税理士からアドバイスを受けて、成果を出すための大切な気づきをいろいろと得ていきます】
8月も下旬に突入し、夏休みも後わずかになってきた。学生アルバイト講師たちも生徒アンケートの結果を励みにして、さらに熱を込めて指導を行っている。猛暑続きの夏だが、教室内はさらに情熱がほとばしっており、誰もが汗をかきながら一生懸命に仕事をしていた。
しかし、順風満帆には物事は運ばないものである。講師からの授業報告で気になるものが見つかった。「中学3年生の一部の塾生でやる気の低下が見られる」というのである。これまで塾内のムードを盛り上げてきた女子バレー部の一部の生徒だった。
言われてみると、あんなに生き生きとした表情で前向きに勉強に取り組んでいた生徒が、疲れからなのか、何か暗い表情で、足取りも重い。調べてみると自習室の利用時間も8月に入り、確実に減ってきていた。
「それは頑張って仕事してきた人に稀に起こる社会人でいうところのバーンアウトのようなものではないかの」
その夜、ちょうど顧問税理士の天海さんと電話で話をする機会があったので、相談をしてみると意外な答えが返ってきた。
「バーンアウト、ですか?」
「そうじゃ。燃え尽き症候群とも呼ぶがの。中学3年生の生徒さんはこれまで部活にかなり打ち込んできたそうじゃないか」
「ええ、これまで部活と勉強を必死に両立していましたね。どちらも手を抜かず、真面目に取り組んでいましたよ」
「この8月にその部活を引退したんじゃろ?」
「そういえば確かに・・・・・・ 8月の全中で負けて引退になったと言っていました。そうか、そこからやる気が低下しているのか」
「社会人のバーンアウトほどではないとは思うが、頑張り屋さんで、ここまで目標を持って部活を一生懸命に取り組んできた子ほど、部活を引退した喪失感は大きいじゃろうからな」
「確かにそういった状況が見られるのは、チームを引っ張ってきたメンバーですね。私も長く塾講師をやってきましたから、そういった症状が見受けられる生徒はこれまでもいましたが、ここまで大きくモチベーションが低下した例は見たことがないです」
「早めに気づけたのは幸いじゃ。この生徒には一定のストレスがかかっている状態じゃろうから、まずは無理をさせすぎる指導を控えるべきじゃな。その代わりに心のケアをする時間を設けるのがいいじゃろう」
「心のケアですか」
「個別の面談を実施して、
現状の気持ちや悩みなどを
聞いてあげるのがよい。
そして塾に通ってきた期間で
どこまで成長してきたのか、
その成長を承認し、
褒めてあげるというのが
効果的じゃろう。
もしかすると、家庭で勉強をするようかなり強いプレッシャーが与えられている可能性もある。ここは絶対に状況を家庭とも共有すべきじゃ。そして互いに同じようなアプローチでその生徒に接していくよう話し合いをしなさい」
「最近は入会数アップを兼ねて、講習会参加生の家庭に連絡する時間ばかりになっていましたので、反省です。生徒が家にいない時間帯にすぐに家庭に連絡して、状況の共有と対応策を話し合います」
「ゆっくり見守ってあげるという寛容さと併せて、勉強面の目標を再確認してみるのはどうかの。
これからの目標が改めてしっかり定まれば、
部活にかけていた情熱を
勉強に注げる可能性は高い。
もしかすると志望校についても揺らいでいて、それが燃え尽き症候群の症状を悪化させているかもしれん。ここのサポートはとても繊細で、とても重要になるから、講師たちともよく連携をとるべきじゃぞ」