冬期講習会で朝から晩まで生徒の対応をしていると一日はあっという間に過ぎ去る。
気づけば2022年の大晦日、そして2023年元旦。
受験はもう目の前で、そんな受験生にとっては大晦日も元旦も特別な日ではない。
そのことは講師にも当然当てはまるので、大晦日に朝から受験対策を実施したと思えば、翌日の元旦も正月特訓で朝から頭に鉢巻きをしてレッスンだ。
「1年の計は元旦にあり」という言葉があるが、塾業界は別。
3月が年度末で、1年のスタートは4月。
今は最後仕上げのためラストスパートを切ったところで、ここから先の1日1日の過ごし方、1時間1時間の有効な利用によって合否が分かれる正念場である。
幸運なことは、私にはそんな過酷なスケジュールに付き合ってくれる学生アルバイト講師たちがいてくれることだ。
100人を超える生徒たちの対応はとても一人や二人の講師でできるものではない。
もちろんその対価としていつものアルバイト費用に上乗せしている。
人件費は前月の1.5倍かかってはいるが、それでも十分に黒字になっているのだから喜ぶべき繁盛ぶりだ。
この経営状態について顧問税理士の天海さんも心から喜んでくれていた。
起業して数年は赤字でも我慢して、とにかくできることを全力でやるべきだとアドバイスしてくれたからこそ、今のこの成功はある。
「継続は力なり」
そう生徒に常々語っていることを自分自身が実行できていることに誇りを感じる。
天海さんの話だと、自分自身が有言実行できている影響で何かしら良い効果を生徒に与えられているのではないかとのことだ。
言葉の重みが違うらしい。
ここまでの成功について天海さんに感謝の気持ちを伝えると、天海さんはニコニコ微笑んでうなずいてくれた。
そして改めて私に
「何のために起業をしたのか」、
「何のために生徒を集めているのか」、
その初心を問いかけてきた。
その答えに自問自答していると、数字だけを追いかけてきたわけではないが、忙しさが極まっている中、募集や売上といった事柄に気持ちが大きく傾いている自分自身に気がついた。
もしかしたらそういった意識も、レッスンや会話を通じて生徒に伝播しているのかもしれない。
テストで良い点が取れればいい、入試に合格すればいい、そんな成功だけを講師も生徒も見続けているのでいるのではないだろうか?
そう考えるとなぜか背筋が寒くなった。
将来成功していくら偉くなっても道を外れる大人はどんな業界にもいる。
それはきっと成績や売上やSNSのフォロー数など成果ばかりを追っかけて満足し、一番大切なことを見失っているからかもしれない。
どんなに忙しくても、過酷な競争な中でも、大切にしなければならないことがある。
それはきっとこの時期だからこそ生徒たちに伝えなければならないはずだ。
新年の挨拶のため天海さんに電話をした際にまたそんな話になった。
「正月特訓とはまた大変な仕事じゃな。生徒たちもよく頑張っておるよ」
「ええ、自らを成長させようと自分たち講師の話にしっかりと耳を傾けてくれる生徒ばかりです。私のつまらないオヤジギャクにも笑ってリアクションしてくれますしね」
「はじめさんがいったいどんな話をしているのか興味があるの」
「改めて自分の目標が何なのかを考えて、起業の際に天海さんからいただいた言葉を新年一発目として生徒たちに伝えました。
『成功のためではなく、
価値のある人間になる努力をしなさい』
という言葉です」
「ほう、アルベルト・アインシュタイン氏の言葉じゃな」
「新年だからこそ、改めてこの言葉を思い出して、そのために何ができるのかを自分自身しっかり考えてこの一年も励んでいきます」