2024年もあっという間にもう5月。
塾業界にとっては1年の中で比較的余裕のある時期のまっただ中だ。
私はこの余裕のある時間を利用して、学習塾の知名度を高めるべく、2年後の難関中学校合格者輩出を目標にしたプロジェクトを開始した。
そして目標達成に向けて私を含めた5人のチームを編成。
企業目標は難関校合格の実績と知名度向上による売上アップなのだが、顧問税理士の天海さんからアドバイスを受けて、みんながその価値を信じてモチベーションが上がる大義名分も決めた。
高い志望目標の生徒の夢を叶えられるスキルや経験を積み上げて、より多くの子どもの可能性を引き出せる学習塾になること。
そしてこの教育を通じた人材育成が、日本の未来を良くする大きな影響力を持つこと。
この2点をチームの共通目標・共通理解とした。
教えることが好きだし、教育にもっと大きな可能性を感じている4名はすぐにこの案に賛同してくれた。
中でも大興奮なのが新人の井伊だ。
新人らしからぬ落ち着きと指導力、さらにアイドル級のルックスですでに私の学習塾では一番人気の講師となっている。
負担が増すので渋るかなと懸念していたのだが、予想外にとても乗り気でどんどんアイディアを出してきていた。
会議は常にリモート形式。
愛知県や滋賀県に住んでいる大久保や春日がチームのメンバーなので顔を合わせる場はここしかない。
メンバーに年齢差はある。
石川や井伊が大学生なのに対し、大久保は28歳、春日は33歳。
実際に大手進学塾の常勤講師として難関校受験対策の経験も2名にはある。
この経験の格差によって、高い志をチームで共有することができたからといってリモート会議はスムーズに進むわけではなく、常に紛糾した。
井伊がいろいろなアイディアを発言しても、現実を知っている大久保や春日は一蹴するのだ。
現実を知らずに理想だけで語っている井伊を完全に見くびっている様子だった。
しかも目標が共有されているだけにその対応は露骨でとても話し合いという感じではない。
天海さんからは、
より付加価値のある経営ビジョンを
達成したいのであれば、
ただチームワークを良くするだけでなく、
個々の能力や資質を発揮できるような
チームの育成「チームビルディング」が必要
だとアドバイスを受けた。
そして
チームビルディングのためには
目標の共有だけでなく、
個々の強さや個性を知る
コミュニケーションの質を
向上しなければならない
とのことだった。
つまり互いの理解が浅い状態ではいくら会議しても互いにモチベーションを低下させるだけの徒労に終りかねないということだ。
思っていた以上に会議がうまく運ばない状態を私は天海さんに電話で報告した。
「ベテランの2名はそもそもまだコミュニケーションの量に問題がありそうじゃな。チームビルディングで用いられるゲームなどを通じてまずは自分の意見を話しやすい環境を作るといいじゃろう。その中で互いの理解も深まる」
「見ず知らずの者同士がいきなりリモート会議という設定に無理があったのですね」
「互いの理解が深まってもその考え方や価値観の違いから対立は起こりやすくなる。そこは健全に話し合いを進め、納得するまで対話を続けていくようなコミュニケーションの質の向上が求められる」
「会議の司会者はチームリーダーの石川に一任しています。もちろん私もサポートしていますが」
「重要な役割をするのがそのチームリーダーじゃ。
まずはチームリーダーが
メンバーの個性を十分理解しておく必要があるじゃろう。
その上で信頼関係を構築して円滑なコミュニケーションを支援し、その影響でメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮しようとする方向が理想じゃな」