※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
マモル「ふーっ……」
ショウ「どうした?体調でも悪いのか?久しぶりに会った途端にため息なんて」
マモル「体調は問題ないんですけど、何か、流れが良くないっていうんですかね。どうも顧客が増えなくて困ってるんです。先輩の会社は大勢の社員がいるから、誰かが調子悪くても、誰かがカバーできるからいいですよね。僕はひとりだから、僕が調子を落とすと売り上げに直撃するんです」
ショウ「そりゃそうだろうな。何か思い当たる節はあるのか?調子を落とす原因のようなものは」
マモル「それが、特に思い当たらないんです。先月はかなり売り上げも伸びて、我ながら絶好調だなーって喜んでいたんですけど、今月は運が悪いみたいですね。先月と何も変わったことはしてないんですが。こういう周期は何をやってもダメですね」
ショウ「マモルのその思考は、松下さんの考え方と真逆だな」
マモル「松下さん?先輩の会社にそんな名前のコンサルタントいましたか?」
ショウ「違うよ。パナソニックの創業者の松下幸之助氏のことさ」
マモル「ああ。経営の神様って呼ばれていた方ですよね。僕のどんな考え方の逆なんですか?」
ショウ「松下氏は小学校までしか教育を受けていなかった。それでも一生で5,000億円もの財産を築いたといわれているんだ」
マモル「よほどの商才があったんでしょうね。やっぱり僕は才能がないんでしょうか?」
ショウ「確かに松下氏の施策はセンス溢れるものだったが、それでも自分の才能や実績に対して傲慢な姿勢はなかったらしい。成功した原因の九割は運が良かったからと言い続けている」
マモル「運なんだ。だったら僕の考えとおなじですね」
ショウ「大きく違うのは、成功したのは運が良かったから、うまくいかなかったら、それは自分の努力が足りなかったから、と考えていらっしゃった。この謙虚な姿勢が周囲の共感を呼び、結果として多くの人たちに応援されて、運も向上していったんだ」
マモル「謙虚な姿勢ですか?」
ショウ「うまくいったら自分の手柄、失敗したのは運が悪い、世の中が悪いと考えていたら、誰もマモルのことを応援しなくなるだろう。良い運は逃げていくことになる」
マモル「経営者にとっての謙虚な姿勢っていうのが、イマイチピンときませんね」
ショウ「松下氏の言葉にこういうものがある。『素直な心というものは、すべてに対して学ぶ心で接し、そこから何らかの教えを得ようとする謙虚さをもった心である』と」
マモル「常に学ぶ心で接するということですか」
ショウ「そうだ。成功している経営者は、自分はまだまだ未熟だと感じている。だからこそどんな人からのアドバイスに対しても、例え辛辣なフィードバックに対しても、感謝の気持ちを持って受け止め、改善することができるんだ」
マモル「常に学ぼうという姿勢は、以前に先輩がされていた自己投資の話にも繋がりますね」
ショウ「これでいいと、傲慢になった時点で人の成長は止まる。会社は経営者の器以上には大きくなることはないからな。経営者は自分に満足してはいけない」
マモル「そっか、今月の不調は、運が悪いからではなく、自分の努力が足りないからって受け止めるべきなのか」
ショウ「経営者の器は、そうやって他人の言葉に耳を傾けて受け入れる包容力と、素直で謙虚な心だよ。それを忘れずに持ち続けることができたら、マモルの会社もきっと成功できるはずさ」
マモル「ひとりで経営していると、周囲に誰もいないからなかなか他人との交流もなく、アドバイスも聞けないものですね」
ショウ「だからこそ工夫して、自分を磨く努力をしていく必要があるんだぞ。外に出て、積極的にアドバイスを求めるぐらいがちょうどいいのさ」