※これは独立したての経営者であるマモルと先輩経営者のショウの物語です。
マモル「先輩、お久しぶりです」
ショウ「なんだか、最近はあんまり自宅にも帰れていないって聞いたけど、大丈夫か? 顔色もすぐれないように見えるな」
マモル「ちょっと徹夜続きですねー。仕事が溜まってしまって」
ショウ「他の従業員もそんな感じなのか?」
マモル「いえ、定時に帰らせています。というか、杉山は有休をとって旅行に出かけてますけど」
ショウ「マモルだけが忙しいってことか? なんでそんなに仕事を抱え込んじゃっているんだ」
マモル「はあ、杉山に任せるなら自分でやった方が早いですからね。正確だし。杉山はタスクの優先順位っていうものをよくわかっていないんです。自分のやりたいタスクから手をつけて、緊急性が高かったり、重要性が高かったりするのを後回しにしたりする癖があるんですよ」
ショウ「若手にはありがちだな。指摘しているのか?」
マモル「もちろんですよ。けど聞いてるのか聞いていないのか…… 指摘してない状態で緩慢なのはまだ許せますけど、指摘してるのに遅いってイライラするんですよね。イライラするぐらいなら自分でやった方がいいんで」
ショウ「睡眠不足が疲労の一番の原因だぞ。パフォーマンスも6割くらいまで低下してるだろ。抗ストレスホルモンもタンクが枯渇してるはずだ」
マモル「エナジードリンクでしのいでます」
ショウ「そんなの一時しのぎで、疲労はどんどん蓄積していくぞ。マモルの身体がぶっ壊れる。そうなる前に手を打つべきだな」
マモル「どうしたらいいんでしょうか……」
ショウ「そりゃ、タスクを杉山くんに振ることだろう。失敗もするだろうし、スピードも遅いかもしれないけど、仕方ないな」
マモル「わかってるんですけど、顧客に迷惑をかけるのは避けたいんです」
ショウ「それはそうだ。6割完成していたら合格くらいの気持ちで任せて、残りをマモルが引き継ぐ感じで始めてみたらどうだ。慣れてきたら杉山くんのスキルも向上するだろうし、さらにマモルの負担も減るだろう」
マモル「なんでこんなこともできないんだろう。なんでこんな効率の悪いやり方しているんだろう。なんで言っても動かないんだろう。もう頭の中がクエスチョンだらけですよ」
ショウ「俺も経営者になる前から、なかなか他人に自分のタスクを任せるのが苦手だったけど、割り切ってやる必要があるぞ。経営者には他にも時間を割かなければならない大切なことがあるだろう」
マモル「割り切ってかー……」
ショウ「俺が顧問税理士から受けたアドバイスは、山本五十六氏の言葉だ」
マモル「あの、太平洋戦争で連合艦隊司令長官だった方ですか?」
ショウ「ああ。とても部下から信頼されていた人物だったらしい。人材育成にも優れた手腕があったんだ。その中で、『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ』という言葉が残っている」
マモル「人を動かすには4つもやることがあるんですか?」
ショウ「そう。まず模範を見せること。言葉で説明すること。実際にやらせてみること。そして相手を認め、賞賛すること。こうしてようやく人は動くんだ」
マモル「模範は見せていないですね。認めて賞賛することもおろそかになっています。つまり僕のリーダーとしてのやり方に問題があるんですね」
ショウ「自分を追い込むことはないぞ。人材の育成、教育には時間がかかるからな。会社にとっても、マモルにとっても、杉山くんの将来にとっても、じっくりと腰を据えて取り組む必要はあるだろう」
マモル「即戦力として考えていただけに、育成についてはあまり考えていなかったですね。有休から戻って来たら早速僕のタスクを任せてみます。そして、やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてみますよ」