※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
今回のポイントは、『相手と信頼関係を築く方法』になります。
ショウ「おお、マモル。結局、橋本さんだけじゃなくて、マモルもコーチングを受けるようになったらしいな」
マモル「ええ。コーチングの内容や成果について説明を受けていると、僕も試してみたくなっちゃって」
ショウ「橋本さんとは別のコーチなのか?」
マモル「そうですね。コーチングのコースも違いますね。僕は経営者向けのエグゼクティブコースにしました」
ショウ「もう何度か受けてみたのか?」
マモル「オリエンテーションを含めて、3回受けました」
ショウ「まあ、コーチングというのは半年間ぐらいかけて効果を発揮するものだから、すぐにどうのということはないだろうけど、感想はどうだい?」
マモル「驚かされることが多いですね」
ショウ「ほう。どんな点が?」
マモル「コーチから具体的なアドバイスは何もありません。コーチに聞かれたことに答えているだけです。何か世間話をしている感じです。正直、最初はこんなことをしていて意味があるのかと疑問を持ちました」
マモル「そういう驚きか」
ショウ「いえ、それが、そういう時間を過ごしているだけで、コーチに対しての気持ちが変わっていることに気が付いたんです」
ショウ「どんな感じに変わった?」
マモル「会話をしているだけなのに、何か、とても信頼できる相手だと感じるようになってきました……」
ショウ「それは対話形式のコーチングによって、ラポールが形成されてきているからだな」
マモル「ラポール?」
ショウ「フランス語で、橋を架けるという意味だよ。コーチングでは信頼関係を築くことが第一歩になる。そうすることで、クライアントは本音で話ができるようになり、コーチングの効果は高まるんだ」
マモル「なぜ会話しているだけで、ラポールが形成されていくんでしょうか?」
ショウ「ネタばらしをするとコーチングの効果が薄らいでしまうからなー…… まあ、いいか。コーチはクライアントの話を聴くことに全力を尽くしているのさ。耳で聞くだけじゃなく、相手の表情を見て、声のトーン、雰囲気も敏感に感じ取る。五感で相手の話を聴くんだ。そして相手の類似性を誘発する」
マモル「類似性を誘発する?」
ショウ「相手が静かに話すのだったら、こちらも静かに話す。真剣な表情であれば、真剣な表情で聴く。笑顔に対しては、笑顔で応える。相手が腕を組んだら、こちらも同じように腕を組み、腹で呼吸しているのなら、こちらも腹で呼吸する。鏡のように同じことをするのがミラーリング、リズムまで合わせていくことをペーシングという。人は自分と共通点を持った相手に親しみを感じ、心を開くんだ。これを類似性というわけさ」
マモル「話を聴くというだけで、そんなテクニックが使われているんですね」
ショウ「ラポールが形成されると、どんどん相手を信頼し、自分の本音を話し始める。それに対し、コーチはどんな内容でも否定することはなく、受け止める。この人は自分をわかってくれようとしていると思うと、人はさらに信頼を強めていく」
マモル「それがコミュニケーションの力なですね。従業員に対しても、顧客に対してもそうあるべきなのか……」
ショウ「そうだな。信頼関係を築きたかったら、自分を知ってもらう前に、相手を知ろうとすることが大切だろう。
孔子は『人の己を知らざるを患えず、
人を知らざるを患えよ』
と論語で述べている。まずはとにかく相手を知ろうとすることだ」
マモル「とても興味を持ってうなずきながら話を聴いてくれますね。それで僕も気持ちが楽になってどんどん話ができるんです」
ショウ「バックトラッキングだな。オウム返しや頷きを使って、あなたの話を私は興味を持って聴いていますよと、相手の潜在意識に訴えかけるのさ。上手に使えばラポールの形成に効果的だな」
マモル「そうか、話すことよりも、聴くことの方が大切だったりもするのか」