※経営者として独立して間もないマモルが、先輩経営者ショウから成功に繋がるアドバイスを受けて成長していく物語です。
ショウ「おお、マモルか。今日は電話で申し訳ないな。その後の望月の様子がどうなったか気になってな。どうだ、マモルと話をして意欲的に取り組むようになったか?」
マモル「お疲れ様です、先輩。それが…… 結果を先にお伝えしますと、失敗でした」
ショウ「失敗? 失敗ってのはどういうことだ? 変わらなかったということか?」
マモル「変わらなかったことはないんですが…… むしろ悪化したという感じです」
ショウ「あ、悪化した? 仕事を振られても忙しいと答えて断っていたような状態から、さらに悪くなったという話じゃないだろう?」
マモル「えーと…… まあ、そういうことになりますね。ため息をついたり、わざと聞こえるように愚痴を言ったりと、周囲にネガティブな影響を与えるようになってしまいました」
ショウ「最悪だな…… いったいどうして」
マモル「先日、先輩が来られた後で、望月さんとじっくり話をしたんです。本音を引き出すために僕は傾聴に徹したんですが、そこに落とし穴がありました」
ショウ「落とし穴?」
マモル「信頼関係をできるだけ早く構築したいと思って、バックトラッキングやペーシングを駆使していったんですが、どうやら望月さんにもコーチングの知識や経験があったようです」
ショウ「バックトラッキングというのは、相づちをうったり、相手の言葉をそのままオウム返しにすることだよな。ペーシングというのは?」
マモル「相手のトーンや口調を真似して類似性を誘発する手法です。特にコーチングの知識のない相手であれば不自然には映らないのですが、望月さんにはペーシングしているなと見抜かれました」
ショウ「望月にそんな知識があるとは知らなかった。それでどうなったんだ?」
マモル「途中から望月さんのトーンが変わったんで、本音が聞けるかなと期待したのですが、トラップでした。演技だったんです」
ショウ「そんなことまでするのか、望月は……」
マモル「キャリブレーションは、言葉にしない相手の心情を察して助け船を出すことです。ペーシングに気づいて僕に不信感を抱いていることに気づくことが先決だったのですが、それに気づくことができず、逆に小手先で自分をコントロールしようとしていると判断されてしまいました。完全に僕の失敗です。もっといろいろな状況を想定して話をすべきだったと後悔しています」
ショウ「マモルが後悔することなんて何ひとつない。むしろこんなことになって、望月をレンタル移籍したことを後悔しているよ。まさかここまでマモルやマモルの会社に迷惑をかけることになるとは考えてもいなかった。もう望月は戻す。すぐに代わりを手配するから少し時間をくれ」
マモル「先輩らしくないですね。ここで望月さんを戻したら、望月さんを本当に潰してしまうことになりますよ」
ショウ「マモルの会社を潰すよりましだろ」
マモル「そうはしません。望月さんにもしっかり自分を見つめ直して成長してもらいます。以前、先輩は林真理子氏の話をされていましたよね。したことの後悔は日に日に小さくすることが出来ると」
ショウ「…… ああ、そうだ。マモルに彼女の言葉を伝えたことがあったな。
『したことの後悔は、
日に日に小さくすることが出来る。
していないことの後悔は、
日に日に大きくなる』
だろ。確かにそうだが……」
マモル「失敗は成功の基とも言いますからね。これぐらいのことで挫けませんよ。まだやれることはあります。まだしばらくは、望月さんは責任をもってこちらで預かります」